cats and dogs

‐original BL novels‐



-蓮の章- 第五のパンドラ(2)

   § : 「cats and dogs」
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 それからちょくちょく、レンはサクという少年と関係を持つようになった。
 サクはレンと初めて会った薄汚い路地あたりにふらりと現れることが多く、そしてレンもそのあたりにいることが多かった。申し合わせるでもなく、顔を合わせると当たり前のようにどちらからともなく、というのがいつもの流れになった。
 サクは特に誰とつるむということはないのだが、明らかにそのあたりの界隈、野良犬の集団のような若者達の中にあって、自分より年上の連中からさえ一目置かれているようだった。
 だがそこに、気安い親しみというものは存在していないようにレンの目には見えた。むしろ周囲の若者達がサクに向けているのは、腫れ物を扱うような気の遣い方と、追従と、何よりはっきりと「畏怖」だ。


「そりゃ、いきなりカズヤをやりやがったからな。あいつ」
 親しくなった少年少女達に、ある日サクがいないときを見計らってその空気の正体を尋ねると、彼らはぞっとしないように答えた。
「あ? ああ、カズヤってのは、前までこのあたりのリーダー格だった奴だよ。誰かにやられるとこなんて想像もつかないような奴だったんだけどな」
 肩をすくめて、少年達は声音を落とした。
「あんまり深入りしない方がいいぜ、レンも」
「深入り?」
「サクにさ。切れると何するか分かんねえよ、あいつ。下手に関るとさ、……おまえもいつか食い殺されるかもしんねーよ?」


 サクはカズヤを犯しながらその腹を生きたまま切り裂き、時間をかけて長いこと弄んだあげく、最後に銃で頭を吹き飛ばした。


 その話を仲間達から初めて聞いたとき、レンはさすがに驚いた。
 乱暴な人間が多く、暴力が当たり前のように満ちている廃都ではあるが、そこまでの容赦のない残酷さと凶暴性を発揮する者もなかなかいるものではない。想像するだけで嫌になる、絶対にしたくないと思うような、無残な死に様だった。
 どれほどの怒りを、あるいは憎悪を買えば、そんな死に方をするのか。それほどの感情を、そのときサクはカズヤという存在に対して抱いていたのだろうか。
 とてもそんなことをするようには、レンの目からは見えなかった。サクという少年は。

 いつものように顔を合わせるなりレンの部屋のベッドになだれこみ、ひとしきり楽しんだ後に、服装を整えているサクをレンはまじまじと眺めていた。
「何?」
 これもいつものようにベッドで煙草をふかしている、レンのその視線に気付いて、サクが首をめぐらせた。
「いんや。んなえげつない真似をおまえがするのかな、って思ってさ」
 言うと、それでサクは察したらしい。白い顔は表情も変えなかった。
「聞いたんだ」
「うん」
「えげつないか。初めてはっきり聞いたな、そんな言い方」
 サクが小さく笑った。なんでもないことのように。
「ほんとだよ。許せなかったから」
「許せなかった?」
「俺を犯したから」
 そう言ったときだけは、サクの横顔からはすべての感情が抜け落ちていた。もともとそう表情豊かな方ではなかったが、その氷よりも冷え切った横顔に、レンは束の間呼吸を忘れた。
 サクが再びレンを見た。
「怖くなった?」
 黒い瞳には底が見えない。
「……まあ、少し」
 正直に答えながら、レンは煙草の火を消してサクを手招きした。
 素直に近付いてくるサクの手首を掴んでひきよせ、膝の上に抱きとめる。とろけるほどに甘い唇に口付けて、レンは囁いた。
「けど、嫌いじゃない」
 レンと初めて会ったそのとき、サクがそう囁いたように。


 サクの中には激しい怒りが渦巻いているのだ。おそらく、かつてカズヤという人間を直撃して打ち砕いたもの。
 何をそこまで怒っているのか、レンにはまだすべては見えない。だが激烈にすぎるその感情が、サクから表情を奪い、逆に氷のように冷え切ったように見せているのだということは分かった。
 あまりに強すぎる感情が、表情を、それからおそらく本当ならあふれるほどの言葉を、サクから奪っている。


 それほど恐れられながら、ましてその界隈のリーダー格であったカズヤという若者をいきなり殺したサクが、なぜ誰からも報復を受けたり、狙われることがないのか。
 それを不思議に思ったが、すぐにその回答は得られた。いつものように抱き合いながら、サクがおかしそうに小さく笑った。
「みんな俺が怖いんじゃない。俺の後ろにいる変態女が厄介なんだよ」
「……いや、おまえもたいがいおっかないと思うぞ」
「レンは? 怖い?」
 重なった身体の下からレンの裸の肩に腕を回し、サクが尋ねた。深すぎる闇色の瞳。魅入られずにはいられないような、その底知れない深み。
「何度も言わせんなよ」
 引き寄せるサクに逆らわず、レンはその唇をやや乱暴に唇でふさいだ。


 確かにサクは時折ぞっとするほど冷えた目をすることがあるし、底の方では何を考えているのかまったく分からない。
 だがレンは、そのあたりについてはあまり深く考えるのはやめた。考えたところで、何かが分かるとも思えない。
 それよりも、初めて会ったときからサクが見せる強烈な淫蕩さと積極性に、レンはすっかり巻き込まれていた。
 心地良いと思い、相手のことを気に入れば、レンはわりと誰彼構わず男女の区別もなく身体を交えたが、サクとすごすことで得られる快感は今までの誰よりも深く大きかった。
 レンを身体の芯から甘く震え上がらせ、燃えるように指先まで熱くさせる。ただふれあう肌からでさえ電流のような刺激を感じ、飽きずにサクの反応を、刺激を、身体を求めてやまない。
 どうやらそれは、サクの方も同様であるようだった。とくに変わったことをするわけでもないのだが、互いに口付けて身体をまさぐりあい、抱き締めあって熱い交わりをかわすだけで、痺れるような快感にうち震える。いわゆる「相性がいい」というやつなのだろう。
 だがそれにしても、と、レンは思うことがある。
「おまえほんっと……っ……エロすぎる……」
 意識が飛んでしまいそうな気持ち良さと疼きの中で、汗に濡れそぼったサクを背後から抱き締めながら、自身をその蠢き強く締め付ける肉の奥に食まれたままレンは思わず言った。そのときすでにサクは、熱せられ高まり続ける快楽に、喘ぐばかりでまともに言葉を返せない状態だった。
 洩らす声も、喉の反らし方も、身のしならせ方も、そのすべてがサクは総毛立つほどに凄艶だった。そして行為を始めると、まさに溺れるように全身で快楽を貪る。
 それにレンも引きずられてしまう。気持ちよくて仕方がないという様子であられもなく乱れ、達した直後に気を失うことすら珍しくないサクに、ここまで反応されたらそりゃ悪い気はしない、と思ってしまう。
 同時に、悪寒めいた感覚に、ゾクリとする。
 あまりに溺れるように、理性のすべてを手放して刺激を求めるサクに、頭の片隅でレンは恐いとすら思うことがあった。行為に没頭するサクの様子は、快楽にのめり込み支配されることで、まるで何もかもを忘れていたいかのようにレンには見えた。
 黒い瞳の奥に、その底に沈む暗闇に、身体を交え火花のような快楽を分け合っていると、同じ場所にふいに引きずり込まれてしまいそうな感覚を覚える。
 その闇こそがレンをつなぎとめていっそう放さないことに、レン自身もうっすらと気付いていた。


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