cats and dogs

‐original BL novels‐



-蓮の章- 第五のパンドラ(1)

   § : 「cats and dogs」
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 うわ、と思った。初めて「その姿」を見たときに。
(なんだ、こいつ……)
 廃都の一隅。冬晴れの空の下、少年少女達、あるいはもう少し年かさの連中が、いつものように退屈そうに、面白いことを探すようにたむろっている一角。
 自分とほぼ同じか、やや歳下だろうか。数人の仲間と思しき連中に囲まれる中にいた「その姿」に、レンは見るなり目を釘付けにされてしまっていた。
 極めて安物のシャツや、頑丈さだけが取り得のようなデニム生地の服ばかりを着込んだ連中の中にあって、その姿は一見して目を引くほど小綺麗だった。
 モノクロの色彩のラフな格好ではあるが、身に着けているものは残らずブランド物だろう。高すぎないが低くもない身長、少し華奢にも見えるもののバランスの良い全体像。艶のある長めの黒髪に、深い闇夜色の瞳。日に焼けていない白い肌。
 その黒い瞳が、凝視しているレンに気付いたのか、こちらに巡らされた。
(うわっ……)
 まともにその目と視線がぶつかり、レンは思わず身震いした。
 一言でいえば、魔物モンスターかと思った。少年の姿こそしているが、まるで、そう、淫魔サキュバスというやつだ。明るい太陽の下にいるにも関らず、全身から倒錯的な色香が滴るような、匂い立つような、妖艶な……少年、というよりも、「そういう生き物」なのだ、という感じ。
 造作も整ってはいるが、顔形だけならいわゆる美少年はもっと他にいるだろう。しかしそれ以上に、見ているだけで魂を攫われるような尋常でない雰囲気に、目を離せなかった。
 そのレンの方に向かって、黒髪の少年が歩き出してきた。白い顔は表情も変えない。彼を中心にしているようだった、野良犬のような若者達の群れも、その前触れのない動きに彼を視線で追いかける。
 見つめてくる深い黒の瞳に吸い込まれそうになる。まるで媚薬が歩いてるみたいだ、とレンは思った。
 レンの前に立った少年が、自分より高い位置にあるレンの顔を、正面からじっと見つめた。その右の耳朶で、血のように赤い小さな石がキラリと陽光を反射した。
 少年が手を伸ばしてレンの胸元を引き寄せ、いきなり唇にキスをした。
 正直、ぽかんとしてしまった。
 あっけにとられているうちに、少年はもう片方の手を、レンの首の後ろに撫でるように回してくる。引き寄せられて、さらに唇が深く重なった。
 思わず全身がぞくりと総毛立った。少年のものとも思えない柔らかな唇の感触、よほど良く手入れされているらしいきめの細かい肌。
 しっとりとレンの唇をふさいだ唇から、ぬめりのある暖かな舌が這い出してくる。何をどうする間もなく、挨拶のようにその舌がレンの歯の上を、歯茎の上を軽くなぞり、それからその奥にたやすく侵入した。
「……っう、ん」
 その感触を頭が理解したときには、レンはもう少年に逆らえなくなっていた。妖しく柔らかく蠢く舌がレンの舌を絡め取り、その表面を撫で回すように動く。強く引き寄せられて、いっそうキスが深くなる。
 レンもまた、無意識のうちに少年の身を引き寄せていた。キスだけで、頭の芯が痺れるほどの甘さを感じた。
 ようやく少年が、レンの唇を解放した。頬に手を添えたまま、至近距離からその黒い瞳がレンを覗き込んだ。
 深い深い、底の見えない闇の色。底の見えない瞳のまま、少年は薄く微笑した。
「する?」
 その唇が、どこかけだるい響きの声を吐息のように発した。

 レンと少年は口付けを繰り返しながら、レンの住む殺風景な部屋へのドアをくぐった。
 五階建ての、ボロボロの鉄筋の建物。そのちょうど中層にある部屋には、エレベーターなどとっくに止まり、内部の階段は途中が崩れているので、建物の外壁についた錆び付いた非常階段を上がってくる他にない。
「……っん……」
 貪るように互いの唇に吸い付き、口付けを繰り返すうちに、それだけで若干息が上がっていた。
 ドアをくぐったところでレンは少年をコンクリート剥き出しの壁に押し付け、さらに唇を重ねた。少年の呼吸も少し乱れ、頬に赤みがさしていた。
「……おまえ、名前は?」
 その白い顎先に指をかけて、レンは囁くように問いかけた。
「サク。あんたは?」
「レン」
「れん……日本人?」
 壁に押し付けられたままの姿勢で、サクと名乗った少年の指が、長く垂れてその肩に落ちかかっているレンの髪を絡め取る。ざっくりと後ろで結ばれたその髪は、陽の光を溶かし込んだような金髪だった。
 レンの澄んだ青い瞳が、サクの黒い瞳を覗き込んだまま笑った。
「ハーフ。草冠の、花の蓮、って書く。親父が日本かぶれだった」
「蓮」
 物珍しそうにその長い金髪を指にからめてはほどいていたサクが、首を傾げるようにしてレンを見上げた。そしてまた首に腕をからめて、キスをした。
「……嫌いじゃない」

 ベッドに上がるのももどかしく、二人は互いの衣服を脱ぎ捨てながら身体に腕を回した。
 季節は真冬ではあったが、今日はよく晴れていて、窓から入る陽差しは明るく暖かい。窓辺のベッドに上がって毛布を引き上げると、ふれあう素肌のぬくもりもあって、それほど寒いとは感じなかった。
 会ったばかりの相手に、しかも真昼間からこれかと、頭の片隅でレンは思わないでもなかったが、サクという少年を前にしていると、そんな思考は考えるのも馬鹿らしいほど簡単に何処かへ溶けていってしまった。ベッドに横たえた上に覆いかぶさって、その白い裸身を間近にしていると、ふれた指先から、ふれあう素肌から、異様な甘さが染み込んでくるように感じた。
「……ん」
 レンがその耳元から首筋に唇を這わせると、サクがそれだけで喉を反らせて熱い吐息を洩らした。
 その手脚が、組み敷かれたままの姿勢でレンに絡んでくる。また思わずレンの背筋に、ぞくりとした感触が走った。
 なんなのだろう、このサクという少年は。
 明らかに、そのへんの野良犬のような若者達とは毛色が違う。そして涼しい顔に似合わず、恐ろしく積極的だ。身体の奥から滴るような、それこそ媚薬のような色香に、こちらの理性もどうかすると簡単に呑まれてしまいそうになる。
 吸い付くようなその肌に唇を這わせ、指をたどらせていくうちに、サクの白い身体に明らかに赤みが増し、うっすらと汗ばみ始めた。
 その白い肌には、よく見ると傷の痕が無数に刻まれていた。肌色と同化してそれほど目立ちはしないが、今は肌にさした赤みの中に浮かび上がって見える。
 上半身を中心に、刻印のように刻み付けられたその数は相当なようだった。それはサクという少年をひどく痛ましくも見せ、同時に煽るように、ひどく悩ましく劣情を刺激もした。
 その脇腹から腰骨にかけて指先をすべらせると、ビクッと大きくサクの身体が震えた。
「へえ。感度いいんだな」
 ついおもしろくなって、レンはその上半身から腰まわりにかけて、くまなく指を這わせ始めた。
「あ……あっ」
 レンの指先が敏感な肌の上を這うたびに、サクが身体を震わせた。大きく反り返ったその背中にレンは腕を入れ、引き付けて身動きを奪い、さらにそのまま背筋や腰骨、脇腹を撫で回す。
「あ、ちょ……くっ……あ、あぁっ、や……あっ」
 サクの身体がレンの腕の中でビクビクと跳ね、悲鳴のような声を上げた。しかしその声は与えられる感覚に隠しようもない湿りを帯び、呼吸の乱れがいっそう激しくなる。
「だめ、だって……あ、ッう……息、できな……ひっ!」
 ほとんどもがくようなサクの身体をさらにレンは撫で回し、その白い身体が汗にまみれていくのを堪能した。思わず、笑みが込み上げてくる。
「エロいなぁ、あんた」
「おまえ、がっ……う、あ、っ……そんな、さわるからっ……ッく……」
 息も絶え絶えという様子になったサクを、ようやくレンは解放した。
 その汗に濡れた鎖骨の上に、少し強めに唇を当てて吸う。舌を出してちろちろとなぞってやると、またサクが身を震わせた。
 片手の指先でその小さく尖った乳首をつつき、指の腹でこねるように転がしてやると、たまらないような吐息がサクの唇からこぼれた。
「うあっ」
 レンのもう片方の手がサクの股間に伸ばされ、完全に熱くなり反り返っているペニスをそろりと撫でると、ひときわサクの身体が震えた。
 思わずのようにサクの腰が持ち上がり、もっととせがむようにレンの手に押し付けられる。レンはまた思わず笑い、それから強くサクの滾ったものを握った。
「あぁあっ!」
 身を駆けた快感に、サクが抑えることもせず声を上げた。
 レンは反らされたその白い喉に口付けて音を立てて吸い上げながら、ペニスを熱さと感触を確かめるように上下に扱く。それにつれてサクの呼吸がますます乱れてゆく。感じていることを物語るように、その肌に鳥肌が立っていた。
 その様子を見ているうちに、ふと思いついて、レンは身を起こした。
 早くもぐったりしているサクの腕を引いて抱き起こし、自分の身体の前に背中から抱えるような格好で座らせる。そしてサクの脚に自らの脚を絡ませ、大きく開脚させた。サクより身体の大きいレンにとっては、造作もないことだった。
「……なに?」
 起き上がらされたことと、脚の自由を奪われたことで、サクが若干不審そうな顔をした。
 そのうなじをぺろりと舐めて、ひくっとサクがまた反応するのを楽しんでから、レンはその上半身を後ろから抱き締めた。
「自分でしてよ。見てるから」
 さすがにサクが、あっけに取られたような顔をした。
「……いきなりそれかよ」
「いや。だって、なんかあんたがあんまりエロいから。見たくなっちまったから」
 レンはサクを抱き締めたまま、そのうなじから肩甲骨にかけて唇を這わせてゆく。
「……っく……どんだけ変態だよ、おまえ」
「してくんない? 見たいんだけどなあ」
 汗で塩辛いその肌を舌で舐め上げながら、レンはサクの上半身全体を大きな掌で撫で始めた。掌でゆっくりと撫でながら、指先で軽くなぞる動きもまじえ、それから両方の乳首も焦らすようにつつき、転がしてやる。
「うっ……あ、はッ……ちょ、もう……っ」
 サクが身体を震わせ、大きく何度も息を吐き出した。レンの手が上半身から下には降りて来ないことに、やがて観念したようにそろりと自分の手を動かし始める。
「……くぅ……ふ、ぁ」
 ためらいがちに自らのペニスに伸びた指が、しかしそれにふれた途端、サクから躊躇が剥がれ落ちた。白い指が己の陰茎を包み込み、自らの最も敏感で感じる箇所を辿って扱き始める。
「あ、あっ……あ、……はあっ、……ッく」
 堪えきれないように、その唇から熱い声が零れ落ちる。白い身体が脚を大きく広げて固定され、その中心に自らの指を這わせて喘ぎながら刺激する光景は、思わず生唾を飲むほど淫らだった。
 そうする間にもレンの掌と指先が上半身を撫で回し、首筋に噛み付くような強さで吸い付いては赤い痕をつけてゆく。それを感じるたびに、サクの身体が反応する。
「あ……はぁっ……も、これ以上はッ……」
 ある程度自らのペニスを刺激したところで、サクが震えるような声で言った。その指は、熱い滾りから離れている。
 すっかり呼吸の乱れたその横顔を見ながら、そのガーネットのピアスの嵌った右耳に、レンはふぅっと吐息を吹きかけた。それだけでビクリとまたサクが反応するのが楽しい。
「これ以上は?」
「も、無理……いきなり、こんなんやらせるかっ……?」
「うーん。まあ俺も、こんなんさせたことは他にないな」
 サクのすっかり潤んだ黒い瞳が、呑気に答えたレンの顔を睨みつけた。
「焦らすなよ。最初から自分でとか……ッ……」
 言葉の途中でレンの指先が喉元から胸板を伝い、腹まで一気に滑り降りて、サクがまた仰け反った。
 その首筋に口付けてから、レンはサクを少々乱暴にベッドに仰向けに押し倒した。
「そりゃそうだな。悪かった」
 レンはあっさり言いながら、サクの脚を大きく開かせて自らの身体で押さえ、その膨れ上がったペニスを舌で軽く舐め上げた。
「ひっ……!」
 跳ね上がったサクの下半身をさらに強く押さえつけ、身動きできないようにしてから、レンは本格的にその股間に指と舌を這わせた。たっぷりと唾液を滴らせ、サクの先端から既にあふれるほど零れ落ちていた先走りをなすりつけて、丹念にその熱いものを弄び始める。
「あっ……あ、あっ!……っ……く、ああ、あっ!」
 サクがひきつるような声を上げて、何度も大きく弓なりに背をしならせた。何か掴むものを探すように彷徨った手が、シーツを握り締める。
「な、んでっ……おまえ……ッ……すげえ、いいっ……あ、あっ」
「なんでってそりゃ、おまえが自分でするの見てたから」
 ぺろりとその亀頭を舐め上げて言うと、サクがまた痙攣するように身体を震わせた。その呼吸が、どんどん切羽詰ってゆく。汗でてらてらと光る胸板が、激しく上下する。
「あっ……ぁ、くッ……きもち、いい……も、イキそ……ッあ、ぁ」
 ほとんどうわごとのようにサクが言い、レンの舌と指の動きもそれに応えるようにせわしなさを増した。ひときわ強くサクの身体が強張り、絶頂を示すように、その身体が小刻みに震えながら反り返る。
「あ、あッ……ああぁあっ!」
 悲鳴のような声とともに、サクのペニスの先から精液が迸った。それをレンは残らず口で受け、その間もサクの腰を撫で回す手を止めなかった。不思議なほど、そうすることに抵抗を感じなかった。
「……ッは……はぁ……ぁ……」
 絶頂の余韻にぐったりとなっているサクに、レンはそのペニスを綺麗に舐め上げて清めてから、身を乗り出して頬にキスをした。
「俺も気持ちよくさせて」
 よほど強く達したのか、身体の自由がきかないほど脱力しているサクを引き起こし、裏返して、その腰を持ち上げる。
 レンはベッドの下からローションの容器を引っ張り出して、勃起している自分自身とサクの臀部に、まんべんなく振りかけて塗りつけた。そのぬめる感覚と冷たさに、朦朧としかかっていたサクが反応した。
「ふぁ……あっ……」
 軽くならすためにレンがサクの窄まりに指を這わせ、ローションをたっぷりからませたまま数度抜き挿しすると、たまらないようにサクが腰をくねらせた。
 数度のそれでサクの後ろは柔らかくほぐれ、そればかりかレンの指に熱く吸い付いてくる。そのあまりに淫靡で甘い媚態そのものの反応に、レンはまたごくりと唾を飲んだ。
 これなら、丹念にほぐす必要はないだろう。レンはサクの上に後ろから覆いかぶさり、抱き締めるようにしながら、自らの滾りをサクの中にずぶずぶと埋めていった。
「あっ……あっ、ああっ!」
 抱き締められているせいでシーツに押さえ込まれた格好になっているサクが、後ろから突き入れられた熱い質感に、堪え切れないようにもがいた。
「……ッ……」
 そこは信じられないほど熱く、レン自身に絡みつくようにたちまち締め上げた。痺れるような快感に、思わずレンの喉からも熱を帯びた吐息が落ちた。
「ん、やッ……あ、あっ」
 感覚が強すぎるのか、無意識のようにもがいて逃れようとするサクの両手を、いっそうレンはシーツに強く押さえつける。さらに腰を押し付けて、ペニスをその身体の奥まで埋めた。
 それからゆっくりと、抽挿を始めた。うかつに動くとすぐに達してしまいそうで、わざとペースを落とした。
「いっ……い、い……あ、きもちいい……ッ……んあ、ぁ」
 堪えるようなサクの声が、レンの耳朶をもまた震えるほどなまめかしくなぞった。白い背筋に指先をすべらせると、ビクッとサクが身を硬くして、いっそう締め付けが強くなる。
「やべ……俺、ちょっと……我慢、できね」
 できるだけゆっくり動きながらも、レンも異様なまでに脳髄が、身体の芯が熱くなるのを止められなかった。
 股間から、ふれあった素肌から全身に広がる酔わされるような快感に、どうにも抑えられなくなり、レンはサクを強く抱き締めて動きを早めた。それにあわせて揺すられながら、サクの喉も悲鳴じみた喘ぎを零す。間近でからまりあう息遣いと混ざり合う汗とが、もはやどちらがどちらのものか分からなくなる。
 レンは我ながらあっけなく達してしまい、そのまま震えながら荒い呼吸を繰り返した。そうする間も、サクをそのまま強く抱き締めていた。
「…………すっげえ気持ちいい……」
 やがてレンに抱き締められたまま、サクがうっとりとしたように呟いた。

「あんまりもの欲しそうに見てたからさ。あんたが俺を」
 なぜいきなりキスなんてしてきたのか、と問うたレンに、シャツを羽織りながらサクはあっさりとそう返した。
「もの欲しそうって……」
 ベッドに座ってそれを眺めつつ煙草を吸いながら、レンは若干不満の声を発する。
「違うの? 俺が欲しくて仕方ないって顔してたけど?」
 振り返ったサクの顔は、先程まで何度も絡み合い楽しんでいたあの乱れようはどこにいったのか、と思うほど、きれいに冷めていた。
 それがまた、こいつは何なんだろう、というレンの興味を引く。
「違う。おまえが誘ったんだろ、あれは」
 腑に落ちずにレンは言い返した。
「誘ってない」
 強く言い返すサクに、レンは言い合いをするのをやめた。言い出したらこいつはテコでも動きそうにないという気がした。
 身支度を整えていくサクを眺めながら、ふとレンは問いかけた。
「おまえさ。誰か待ってる奴いないの?」
 サクの全身には、手入れが行き届いているという意味で、明らかに金と手間がかかっていた。身に着けているものにしろ、いわゆるパトロンがついているのだろうことは容易に想像がつく。
「今夜は変態女はいないから平気」
 後ろ姿を見せたままでサクが答えた。ふむ、とレンは膝の上に頬杖をつく。
「そいつに飼われてるんだ」
「そう」
「まあそりゃあ、おまえみたいのがいたら絶対可愛がって手放さないよなぁ。こんなことしてるって知られても大丈夫なの?」
「知られたら半殺しにされるかもね」
「ふうん……おっかないご主人様だね」
 サクがレンを振り返った。その黒い瞳がレンをひたりと見たまま、歩み寄ってくる。まだ上まできちんとボタンをとめられていなかったシャツがはだけて、その下の素肌を無防備にのぞかせていた。
 サクがレンの手から煙草を取り上げ、唇に唇を寄せてキスをした。
 煙草を灰皿に放りながら、サクはレンの広い肩に腕を乗せた姿勢で瞳を細めた。
「あんたがそんな話するから、またしたくなっちゃった」
「どういう理屈だよ」
「つまんないこと言うなってことだよ」
 サクはレンの上に座り込むような格好で、そのままベッドに押し倒す。二人はまた唇を重ねて、舌をからめた。
 ほとんど何もない部屋の大きな窓から入り込む陽射しが、やけに明るくあたりを照らし出していた。


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