cats and dogs

‐original BL novels‐



-朔の章- 第四のパンドラ(2)

   § : 「cats and dogs」
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 カズヤはかなり長いこと目を覚まさなかった。
 サクは部屋を引っ掻き回して足枷を見つけ出し、あの日自分がされたように、眠り込んだままのカズヤの左足にかけ、鉄柱に鎖でつないだ。細身だが長身のカズヤの身体をあまり遠くまで引きずるのも骨が折れるので、鎖が届く位置まで動かすにとどめた。
 それからベッドにかかっていたシーツを切り裂いて、ありあわせのロープを作り、カズヤの両手首を頭の上で縛り上げた。どれほどもがいても絶対にほどけない結び方を、サクはアリサに何度もされたことで自然に覚えていた。
 そうして、あとはソファの背の上に腰を下ろし、カズヤが目を覚ますのを待った。
 今手の届く位置に、目の前に、カズヤがいる。自分のすべてを打ち砕いて奪い尽くしたその男がいる。
 無意識に、ぺろり、と唇を舐めていた。

 カズヤが目を覚ました頃には、窓の外では少しずつ陽が西に傾き始めていた。
 だが日没と言うにはまだ早い。やけに薄暗いのは、ここが陽の差さない路地裏であるせいもあるだろう。
 軽く呻いて、カズヤが目を開く。何が起きたのか咄嗟に分からなかったらしい彼は、まず自分が拘束されていることにぎょっとし、次いでソファの背に座ったままじっと見下ろしている人影にぎょっとした。
「……おまえは」
 部屋はかなり薄暗かったが、互いの姿を見て取ることに不自由はなかった。
「久し振り。カズヤさん」
 見下ろしたまま、サクはゆっくりと微笑した。

 即座に跳ね起きようとしたカズヤに、それより早くサクは動いた。
 ソファの背中から素早く降りて、大股に一気に近付くと、ガツッと加減のない力で、その鳩尾に踵を蹴り入れた。ぐうっとカズヤが呻いた。
「動かないでよ。せっかちだなあ」
 カズヤを足の下に踏みつけたまま、サクは話しかけた。
「久し振りなんだからさ。もうちょっとゆっくりしようよ」
「……てめえ、なんのつもりだ」
 踏みつけられた体勢で、顔をしかめながらも、カズヤはサクを深い黒の瞳で強く睨みつけた。
 ぞくぞくするような美しい瞳だった。自らの置かれた状況をたちどころに把握し、そしてプライドを刺激されて強い敵愾心を燃え上がらせたその姿を、サクは笑ったまま見下ろした。
 そうだ。怒ってくれなくては意味がない。
「なんのつもりって。挨拶に来たんだよ」
「はぁ?」
「元気にしてるかなあって。……あんたのことがずっと忘れられなくてさ」
 黙ってカズヤはサクを見返している。強い視線が、サクの姿の隅々までを、その奥を見透かすように辿って動く。
 あの時と同じ格好をサクはしている。ボロボロの夏服姿だ。
 だがそれ以外は、あの時の自分とは大きく違うだろう。顔つきも、身体つきも、雰囲気も。何もかも。
 カズヤの肋を加減のない力で足下にぎりぎりと踏みつけたまま、サクは続けた。
「あんたはどう? 俺に会いたかった?」
「……ッ……てめえなんざ、思い出しもしなかった」
 痛みに顔をしかめつつも、カズヤは強気に言い返した。
「そっか。残念」
 拘束され踏みつけられて尚、カズヤの表情は芯を崩さない。それはいっそ誇り高いほどで、サクの胸の中をくすぐるように焦らすように刺激した。
 カズヤが動けないように、もう一度、ガツッ!とその鳩尾に蹴り入れる。加減しない一撃がまともに入ったカズヤは、大きく呻いて上体をよじらせ、咳き込んだ。
 それを見下ろしながら少し考えて、サクはいくつかに裂いたままになっていたシーツを拾ってきた。
 ロープ状にしたそれを、まだ身動きがきかないでいるカズヤの拘束した手首にくぐらせ、どっしりと重い立派な数人がけのソファの足に結びつける。いくら力があっても、これでさすがに起き上がることはできないだろう。
 サクはカズヤの上に馬乗りになった。ポケットから小さなビンを取り出して素早く蓋を跳ね、ひどく甘い中身をぐいっと口に含む。まだ苦しげにしているカズヤの顎をつかみ、上向かせて唇を重ねた。
「!っ…………」
 口の中に強引に流し込まれた癖のある甘い味に、カズヤが顔をしかめた。それが何であるのか、きっと分かったのだろう。なぜならカズヤもかつてアリサに飼われていたのだから。
 抵抗しようとするのを、サクはその開いた頬骨をがっちり押さえつけて許さない。深くカズヤに口付けたまま、残らず口の中の液体を注ぎこんだ。カズヤの喉が動いて、その液体が苦しげに嚥下された。
 サクはカズヤに馬乗りになったまま上体を起こし、唇に残っていた甘い味を手の甲で拭った。強烈な催淫効果のあるその液体を舐めたことで、サクの頭も、多少なりともくらりとした。
 自分が何を飲まされたのか理解しているらしいカズヤが、抉り付けるような目で下からサクを睨み上げた。
「……何のつもりだ。あのときの仕返しか」
「そうだねえ」
 サクはカズヤの上に乗ったまま、自らのシャツの襟元に手をかけた。それを力いっぱい引き裂く。
 若干驚いたように目を見張ったカズヤに、サクは自分の素肌を見せ付けるように寄せた。
 アリサに夜ごとさんざん嬲られ続けている素肌は、傷だらけだった。癒えている傷も、癒えていない傷もある。白さを増したなめらかな素肌に走るその痛々しい痕は、しかし異様にサクを妖しい生き物のように見せた。
 カズヤの顔の真横に手をついて、サクは至近距離からその目を覗き込んだ。
「あんたも、あの変態女に飼われてたんだろ?」
 その一言に、カズヤの表情が初めて揺れるように変わった。何かを思い出したのか、苦しげに悔しげに歪み、若干頬に朱がのぼる。
 それを間近に見ながら、サクは僅かに目を細めた。
「俺もあれからいろいろあってさあ。けっこう上手になったんだよ?」
「知らねえよ」
「そっか。あんたは俺を思い出しもしなかったんだもんね」
 クスクスとサクは笑った。 
「でもさ。俺はあのとき本当に苦しかったし、痛かったし。悔しかったよ」
「だから何だよ。知ったことじゃねえや」
 あくまでもカズヤは強気な表情を崩さない。サクはそれを至近距離から見下ろし、うっとりしたように囁きかけた。
「……でも、死ぬほど気持ちがよかった」
 その艶かしく挑発的な表情に、カズヤが一瞬とはいえ息を飲んだ。
 サクの唇がカズヤの唇をそっとたどり、ちろりと舌先でなぞったかと思うと、その舌を唇の奥に差し込んだ。
「……っ……」
 ぞろり、と歯茎をなぞったその動きに、催淫剤が効き始めているのもあってだろう、カズヤの身体が強張った。
 サクは歯を食いしばっているカズヤの歯茎を、焦らず丹念にじっとりと舐め上げてゆく。びくっとカズヤの身体が震え、思わずのように食いしばった歯が緩んで吐息が洩れた。その隙を逃さず、するりとサクは舌をカズヤの口腔にもぐり込ませた。
 噛まれないように頬骨を掴んでから、舌でぺちゃりとカズヤのそれをつかまえてからめ、丹念にこねるように愛撫する。そしてその口内の粘膜をくまなくなぞり、また舌をからめとって強く吸い上げる。
「んっ……う、……ッ……」
 アリサでも滅多に使わない強い催淫剤の効果はさすがに高く、たまらないようにカズヤが喘いだ。馬乗りになった腰の下で、早くもカズヤ自身が反応し始めているのを感じる。
 サクはゆっくりと、深く口付けを繰り返した。カズヤの舌を、反応を味わうように湿った音を立てて吸い、唾液をたっぷりからめて自らの舌で弄ぶ。
 丹念に口内を舌で舐め回し、ようやく解放した。カズヤはすでに呼吸を乱し始めていた。しかし身体が熱くなることに理性が猛烈に抵抗しているのだろう、眉をしかめたその表情は険しく苦しげだった。
「あんたも俺に変な薬を飲ませたよね」
 吐息がかかるほどの間近から、カズヤの深い色の瞳をサクは見つめた。サクの瞳の奥には、暗く凶暴な炎が揺れていた。
「あんたのおかげで、ほんと、いろいろあったよ。全部あんたに奪われてさ。めちゃくちゃにされて。俺がどんな気持ちだったか、あんたに分かるか?」
 ​​​──カズヤの前で這いつくばってあの水を飲んだときから、サクの中ですべてが狂い始めてしまった。
 凝視してくるカズヤの耳元に、そっと唇を寄せる。
「っく…………」
 ふうっと吐息を吹きかけると、それだけでカズヤがビクリと震えた。
「……あんたのすべてを奪ってやる」
 低く低く、サクは囁いた。
「何もかもを奪い尽くしてやるよ。あんたのすべてを」
 カズヤがサクからすべてを奪おうとするのなら、奪われたものまで含めて、さらにカズヤの何もかもを奪ってやる。もうこれ以上、何者にも自分を犯すことは許さない。
 その声音と目の奥に宿る暗い衝動を間近にして、カズヤが確かに一瞬怯んだ色を見せた。その身体がどうしようもなく、逆らう力を殺がれながら媚薬に浸されつつあるせいもあるかもしれない。
 その様子を見ながら、サクの喉の奥が、ククッと抑えた笑みに鳴った。

「はっ……う、あ、ッ……くぅ……っ」
 サクの舌が、指が、ねっとりと首筋や耳や鎖骨の上を這い回り、カズヤの唇から苦しげに抑えた声が洩れる。飲まされたら、何も触れられなくても全身が熱く滾ってたまらなくなる薬だ。そこをのしかかられ、敏感な部分をくすぐられてはたまらないだろう。
 明らかにカズヤの顔には赤みがさし、呼吸が乱れて汗ばみ始めていた。切れ長の綺麗な目許が、与えられる官能にごまかしきれないように充血し、潤みを帯び始めている。
 しかし頑強にそれに抵抗を続けるように、拘束された両手は硬く拳を作って握り締められ、声を殺しながら何度も何度も唇を噛み締めていた。
 わざとサクは焦らすように、その熱くなりつつある肌に指を這わせた。シャツの下に手をもぐりこませ、胸板や腹を撫でまわすも、すでに尖り切っている乳首には絶対にふれさせない。
「気持ちいい?」
 その耳の裏をちろちろと舐めながら、サクは尋ねた。ビクッとまたカズヤの身体が震えたが、何も答えはなかった。ただ荒くなっていく呼吸の音だけがする。
 サクはカズヤの首筋に浮いた汗を舐め取るように、そのまま舌を辿らせて動かした。ひくついている喉に強く吸い付き、軽く歯を立てる。
「……ッ……こんな、……何がしたいんだ……っ……」
 カズヤが苦しい呼吸の下から搾り出すように言った。
「……何がしたいんだろうね」
「今さら、どうなるもんでも……ッ、ない、だろう……ノコノコついて来やがったのは、てめえだろうに……ッ……く、はぁッ……」
 とうとう隠しようもない熱い吐息がカズヤの口から洩れ、喉が仰け反った。
 その汗に濡れる喉を、浮いた喉仏をなぞるように、のしかかったまま舌の先でサクは味わうようにぺちゃぺちゃと舐め続けた。
「どうにも……確かにならないね。戻れるものなら戻りたいけどね」
 熱さを増していくカズヤの声とは逆に、サクの声も瞳も、淡々と冷え切っていた。唾液をなすりつけながら舌を耳まで移動させ、その穴にくちゅくちゅと音を立てて突っ込む。
「う、あッ……あッ!」
 その動きにひときわ大きくカズヤの身体が反応した。
 拘束され、体重をかけてのしかかられているので、大きく身動きすることはできない。しかしそれゆえに、その反応の大きさがサクには手に取るようにわかった。
 どうやら耳の中をくすぐられることに、ことさら弱いらしい。サクは指先を伸ばしてもう片方のカズヤの耳にふれ、その穴をくすぐるようにつつき、指の腹でそっと撫ぜた。
 弱点を晒してしまった悔しさにカズヤがぎりっと歯軋りするも、高まり続ける一方の官能に、どうにもならず喘ぎを洩らす。呼吸がどんどん切羽詰ったものになってゆく。
「あっ……くぅっ……や、やめろっ……!」
 執拗に耳の穴を愛撫し続けるサクに、ついにカズヤが震えながら言った。
「さんざん人を好きにしておいて、よく言うよ」
 サクの下で、すでにカズヤのペニスは完全に硬くなっていた。そしてサクの股間もまた、じわじわと熱を高めつつあった。
 ズボンとジーンズを隔ててさえはっきりと分かるカズヤの強張りに、サクは自らの腰を動かして押し付けた。
「……んっ……」
「あ、あッ!……くうッ!」
 サクが洩らした声の数倍も高い声をカズヤが上げ、汗の浮いた身をよじらせた。なんとか反応を抑えようともがいているせいだろう、苦しげな呼吸に大きく胸板が上下している。
 その様子に、上体を起こしてサクは魅入られたように視線をそそいだ。
「すごい色っぽいな、あんた。アリサが可愛がるわけだ」
「く、そっ……てめえ……ッは……無事でいられると思うなよ……ッあ、ああっ!」
 馬乗りになったままサクがさらに自らの腰をくねらせ、カズヤの硬くなった股間にこすりつけた。悲鳴のような声を上げて、カズヤがビクビクと背を跳ねさせる。
「あっ、あッくぅ……ッ! く、や、やめろッ……!」
 必死の形相で堪えているカズヤの額や頬に、長い黒髪が乱れて汗で貼り付く。それを指先でよけてやりながら、サクは嬲るように腰を押し付け続けた。
「やめると思ってる?」
「っぐ……あ、はあッ……これ以上、やったら、……ッ……殺すぞ……てめえっ……ッう、はぁッ……!」
「説得力ないね。そんなによがってるくせに」
 サクは再びカズヤの耳元に顔を寄せ、べろりと舐めた。
 震えるカズヤの上から、いったん降りる。
「でも、そうだね。あんたは俺の前でいきたくないだろうから」
 サクはカズヤのベルトを外すと、無造作に下着ごとジーンズを引き下ろした。脱がされるときに引っかかったペニスがぶるんと震え、すでにたっぷりあふれていた先走りを散らす。その刺激に、カズヤがたまらずビクリと身体を強張らせた。
 サクはシーツで作った紐のきれっぱしで、勃起しきったカズヤのペニスの根元をぐるぐる巻きにした。ぎゅっと加減のない力で結び目を固めると、カズヤが悲鳴のようなかすれた声を上げた。
「あッ……ああぁっ!……っくぅ……」
 びくびくと腰を跳ねさせるカズヤに、サクは腫れ上がったそのペニスの先を軽くはたく。くすくすと笑みがこぼれた。
「苦しいんだよねえ、これさ。でもこの方がカズヤさんもいいでしょ? 俺の前でみっともなくいくなんて、プライドが許さないもんね。これでどんだけ感じても出せないからさ。安心してよがり狂うといいよ」
 カズヤが凄まじい目でサクを睨みつけた。充血し殺気だったその目に、サクの背筋を性の快楽に匹敵するほどの何かがぞくぞくと走り抜ける。
 サクの手がカズヤの前髪を乱暴につかみ、床に押し付けた。
「いかせてなんかやらないよ。いくらだって苦しめばいい。時間はあるからね。たっぷり遊んであげるよ」
 ぺろり、と、また無意識に唇を舐めていた。


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