cats and dogs

‐original BL novels‐



-朔の章- 第二のパンドラ(2)

   § : 「cats and dogs」
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 女はぽかんとした顔をしていた。やがてゆっくりと、あでやかに微笑む。
「……ふぅん?」
 女はスリットの深いスカートから覗く肉感的な脚を優雅に組み替え、膝に頬杖をつく。真っ白い指先に、磨かれてごてごてと彩られた赤いネイルが光った。
「近頃の野良犬は人の言葉を喋るのね」
 女は穏やかにサクをあざけった。
 サクは一瞬も目を逸らさずに、女を睨むように見つめ続けた。
 この狂った状況で、水も食べ物も着るものにも事欠く八方ふさがりの状況を、今は早急になんとかしなければいけない。身ひとつという持ち札で、安定した衣食住の環境を手に入れ、力を蓄え、ここで生きていくためのベースを、なんとかして築かなければいけない。
 この女の身なりは豪奢で、車は高級だ。こいつに取り入ることが出来れば、とりあえず当面は生きられるはずだ。
 すぐそこに転がっている無残な少年のことが、気にならないわけではなかった。この少年をおそらくこんな姿にして躊躇いもなく捨てたこの女に、恐怖を感じないといえば嘘になる。だがそれでも、どうせすべてを捨てて食らいつくなら、明らかに金と物を持っていて、メリットの大きな相手の方がいい。何よりサク自身にも、他人を心配したり気にかける余裕は、既になかった。
「血統書つきだって、捨てられりゃただの野良犬だぜ」
 だからどうあざけられようと、挑むようにサクは女を見つめ続けた。このいかにも一筋縄ではいかなそうな女に、なんとしても自分を売り込んで、気に入られなければいけなかった。
 だがどうすれば、この女に気に入られることができるのか。女をじっと見つめ、そのちょっとした目の動きや表情の変化に全神経を集中させ、サクはその心理や感情を読み取りにかかる。
「確かにね」
 女がクスリと赤い唇で笑った。パールの艶を帯びたルージュはくっきりと女の唇を縁取っている。そのシャドウとマスカラの濃い目許が、サクを足元から値踏みするように見上げた。舐めまわすような無遠慮な視線にサクは不快感を覚えたが、それを顔には出さなかった。
 女が細い指を自分の顎に当て、サクを見る目を細めた。
 雨に濡れそぼったサクの姿は、白いシャツが透けて素肌に張り付き、黒髪が頬や額や首筋に乱れてかかっている。手荒な扱いを受けたことがすぐに分かるボロボロになったシャツや、あちらこちらについたまだ赤い生傷が、いかにも健全に鍛えられ日に焼けたしなやかな印象とのギャップを誘う。むしろそれは、濡れて張り付くシャツを透かすと尚更、サク自身の思惑はどうあれ、ひどく扇情的な眺めだった。
 すいと女が片手を持ち上げ、サクの股間を鷲掴みにした。
「……っ……!!」
 いきなりそんなことをされるとは思わず、サクは飛び上がるほど反応した。女の指は無遠慮に、布越しにその向こうにあるものの感触を確かめるように指を這わせ、形をたどって揉み始める。
 サクの全身を猛烈な悪感が走り抜けた。だが奥歯を噛み締めて、それに堪えた。あえて動かず、女のさせたいままにさせる。
 いかにもあやしげなこんな女に売り込みにかかった時点で、何が起きてもそれは受け入れる覚悟が必要だった。
 女の白い指の動きは、まるで人間のものではないように卑猥で、布越しだというのにサクの股間を次第に着実に刺激し始めた。サクは思わず洩れそうになった熱い吐息を噛み殺して、女を見返す。
 女の白い顔からは笑みは消えており、じっとサクをモノを見るような目で見つめていた。
 この女は何を考えている? この女の好みの反応は? どう返すのがこの女の嗜好に響く?
「なかなかおもしろいワンちゃんだけれど。あなたを飼ったところで、私に何のメリットがあるのかしら?」
 女はサクの股間を弄びながら、ゆっくりと尋ねる。
 帯びる熱と疼きが強くなる一方のそこに堪えながら、サクはできるだけ声を抑えて返す。
「……あんたが望むなら、なんでもする。……っ、……何も知らないワンちゃんを、一から好みの犬に仕立て上げるのも、楽しいと思うけど?」
 だがどうしても、答える声が途切れがちになる。
 女の瞳がまた少しだけ細まり、その奥に確かに情欲の焔が揺れるのを見た。
「……っは、う、ッ……」
 サクは声と反応を抑えるのをやめた。元々疲労が色濃い身体は、湧き上がる快感にあっけなく支配され始めた。
 女はサクの様子をみつめたまま、その反応のすべてを窺うように、いいようにズボンの上から股間を弄び続けている。サクの方でも、女の様子を窺いながら、あえて与えられる快楽に逆らわず身体を震わせる。それに呑まれそうになりながらも、頭を必死で回転させ続ける。
 この女はサクのどんな反応を見たいのか。どんな嗜好の持ち主なのか。この女に気に入られるにはどうしたらいいのか。
 そのまま動かず、脚を閉じることもせず、サクはむしろ自分に起きている反応と変化を女に見せ付けるように身を反らせて喘いだ。意図してそうしようと思わずとも、女の指の動きはとんでもなく淫らで巧みだった。片手の指だけで、しかもズボンと下着の布越しだというのに、サクを的確に責め立てる。そこに血流が集まって、熱く滾り出すのを感じる。
 そのうち女の手が器用に片手でズボンのベルトを外し、無造作に前をはだけさせた。そこに覗いたペニスは、すでに完全に熱く勃起していた。
 女の白い指がその先端をなぞり、滲み始めていたぬめる先走りを、亀頭全体に塗りつけるように動いた。
「……っく……う」
 そのたまらない感触と、じろじろと見回す視線に、サクはさすがに羞恥で耳たぶまでが真っ赤に染まる。一瞬腰が引けたが、あえてさらに脚を開くようにして愛撫を受け入れた。
 そして直接ペニスを嬲られ、襲い始めた快楽は、今までの比ではなかった。膝が震えて崩れそうになるのを、車に取り付いてなんとか支える。ドキドキと心臓が強く脈打ち、息が上がり、股間にすべての熱が集まって、雨に打たれ続けている身体を芯から燃え上がらせる。
 サクを弄び続けながら、女はまるで最初に出会ったときのカズヤのように、あれこれと質問をした。身の上や、いつどうやってこの廃都にやってきたのか。年齢は。その姿はどうしたのか。ここに来るまでに何があったのか。
 それになんとか、途切れ途切れながらも、サクも言葉を返していく。
「……カズヤに会ったの?」
 この廃都に来てから出会った男についても尋ねられた。その名前が出ると、明らかに女の態度がそれまでと変わった。美しい瞳が輝きを増し、にいっと唇の両端を持ち上げる。
「そう。……じゃああなたのその姿は、カズヤのせいなのね。あの子に何をされたのか、すべて事細かに、ここで私に話しなさい」
 思わぬ言葉にサクは驚いて、快楽に堪えるために知らずうつむいていた顔を上げた。
「……え」
「嫌なの? 嫌ならそれでもいいのよ、私は」
 女の指が、すっとペニスから離れかける。サクはぶんぶんと首を振った。髪や顎の先端から、全身を濡らし続ける雨の雫が散った。
「……嫌じゃ、ない」
 嫌に決まっていた。何をカズヤにされたのかなんて、思い出したくもない。しかもこんな異様な状況下で、それをすべて話せとこの女は言う。
 この変態女が。
 心の中で歯軋りし、毒づきながら、サクは話し出した。
 カズヤにいいようにされ始めたくだりに差し掛かると、どうしても言葉に詰まった。だが無理やりにでも言葉を探し、吐き出した。
 その間にも、すっかり真上を向いてそそり勃ったペニスに、白い指は妖艶に絡み続ける。鈴口をくすぐり、カリの部分をなぞり、竿をしっとり吸い付くような指で包んで扱き上げては、きゅっと強弱をつけて握り締める。そして爪の先で、つうっと根元から先端にかけてをなぞる。
 一方的にペニスを弄ばれながら、自分がいいように男に嬲られ、犯された経緯を話すという状況が、いつしかサクの脳髄も異様な興奮で炙っていた。
「……っふ、あ……はッ……ぁっ……!」
 たまらなくペニスが熱く、下半身がとろけてしまいそうで、ついにサクが大きく声を上げて喉をのけぞらせた。濡れそぼったまま快楽に震え、必死に堪えつつ呼吸を荒くしているサクは、見るものを思わずぞくりとさせるほど悩ましく、淫らだった。
 そんなサクをじっと見つめている赤い髪の女の目の奥にも、うっとりするような強く淫猥な炎がちろちろと揺れていた。
「……あっ、あッ……く、ッ……!」
 そのうちサクが限界間近になり、車に取り付いて、切迫した悲鳴を上げ始めた。
 言葉を出そうにも、もう呂律がまわらず、頭がひっかきまわされたようにぐちゃぐちゃに熱く、雨の冷たさすら感じない。立っているだけでやっとだった。股間が熱くて熱くてたまらない。気持ちが良すぎて全身に汗と鳥肌が同時に浮かぶ。
 とうとうサクのペニスがひときわ硬さを増し、張り詰めてはじけた。どっとあふれた白く濁った精液が、ばたばたと濡れたアスファルトを汚す。
 長時間異様な状況で嬲られ続けたペニスはなおもビクビクと震え、そこにいたぶるように、白い指がまだまとわりついている。サクは声も上げられずに、痺れるような絶頂の感覚に震えた。
 やがて波が引き始めると、もはや立っていられず、その場に膝が崩れた。
 射精してしまうと、べったりと真っ黒い嫌悪感が胸に広がった。悦楽のあまり滲んでいた涙とは別の涙が思わずこぼれたが、それを女に見られないようにうつむいた。頬を伝う雨が、浮いた汗を洗い流し、涙も隠した。
「いいわ」
 腰が砕けたようになってすぐに立ち上がれないサクに、頭上から女が声を投げた。
「いらっしゃい。あなたをテストしてあげるわ、ワンちゃん」
 妖しく微笑む女を、サクは虚ろな目で見上げた。
「あなた、名前は?」
「……サク」
「そう。私はアリサ。乗りなさい」
 アリサがシートの奥に身体をずらす。アリサが動いた拍子に漂った濃密な甘い香水の香りに、サクの頭がくらりとした。
 ​​​──とりあえず、第一段階はクリアだ。
 サクはもう何も考えず、黙ってアリサの指示に従った。


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