cats and dogs

‐original BL novels‐



花舞いの岸 (六)

   § : 『INDEX/小説紹介』
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 薄い花びらを一枚ずつ綻ばせ脱ぎすべらせてゆくように、夜光は一夜を経るごとに変化していった。
 幼さを残す果実の瑞々しさを損なわぬよう、あえて巳汐は、徹底して夜光に奉仕の技巧を仕込むことはしなかった。夜光のような背格好を好む者であれば、とにかく懸命で少しくらいぎこちない方が、その初々しさにいっそう感激する傾向がある。それに年齢を重ねるうちに数をこなせば、容貌に釣り合った手練はそのうち身についてもゆく。
 ただ勿論、口と手を使えば相手を欣悦の極みに導ける程度にはなってもらわねばならなかった。少しでも夜光の抵抗感を削ぐため、そして肌身で覚えてもらうために、最初は巳汐が夜光に施してやったのだが、夜光は口淫という行為を想像だにしなかったようで、最初はひどく驚いて泣きながら抵抗していた。手馴れた巳汐の愛撫に性的に幼い夜光が抗えるわけもなく、じきに快楽に溺れていきはしたものの、気をやった後の眼差しは普段よりも泣き濡れて虚ろだった。巳汐に対して同じようにしてみることを求められたときは、夜光は青ざめてしゃくり上げていた。それほど夜光が困惑し、抵抗感を示したのは、初めて巳汐の手で性の快楽を識らされたとき以来だった。
「厭なら辞めて良いのですよ」
 巳汐のあっさりとした感情を含まない一言に、夜光は涙ぐみながらも、しかし首を振った。はじめはおそるおそる手を伸ばし、唇をふれさせて軽く舐める程度で精一杯で、とてもものにならなかったが、二日目には夜光は肚を決めたようで、他人のものを咥えることを躊躇わなくなった。
「相手が何を望んでいるのかを感じ取り、相手の望み通りに動くことに全神経を遣いなさい」
 男体になり女体になり、様々な性技や体位を教えていきながら、巳汐は夜光に言い聞かせた。
「乗せられているように見せながら、自分の呼吸に相手を乗せなさい。感じているように見せることも、身の昂ぶりを抑えることも大事です。でなければ身がもちません」
 巳汐に教えられることを覚えるだけで精一杯である夜光は、そんなことはできる気がしないとばかりに、不安気にそれを聞いていた。こればかりは、それこそ場数を踏んで呼吸を覚える他にないことでもあり、あとはできるだけ巳汐との行為の中から学んでもらう他になかった。


 夜光が巳汐を訪ねるようになって、ひと月ほど経った夜。
 毎夜何かしらで刺激されるうち、夜光の後ろの秘孔もかなりほぐれ、既にそこで達することも覚えていた。何しろ最玉楼に花として勤めて長い巳汐は巧みで、またその愛撫は淫蕩で繊細でもあり、手ほどきが始まってから夜光はもう何度気をやったか分からないほどになっていた。
 主導で動くことがあまりまだできない夜光に、巳汐は坐った上に乗らせ、夜光自身の動きだけで極みに導くよう言いつけた。とりあえずそこまでできれば、最低限の手ほどきは修了としても良いだろう。
 横臥する姿勢にしなかったのは、巳汐の方からも夜光の肌にふれて刺激するためでもあった。夜光の身体はまだ幼いほどに若く敏感で、性の刺激に慣れてもおらず、それに対する耐性も低い。少しは制御することも覚えねば、それこそ三日と経たずに寝込むことになりかねなかった。
「あ、あっ……ッ……」
 巳汐の腰の上に跨り、身体の奥までその熱い滾りを飲み込ませた状態で、夜光はしきりに奥歯を噛み締め、小刻みな呼吸を繰り返した。
 白い単衣が、丸い肩を剥き出しに、翅の広がるように大きくはだけている。うっすらと上気し汗ばんだ胸元や鎖骨まわり、乱れた髪が貼り付く首筋や浮いた肩甲骨に、行灯の暖色の明かりがなめらかに照り映えていた。
 乱れた着物の下に覗く処女雪の如く白い肌は、ここしばらくで何処かあやうげな、それまでは見られなかったしっとりとした艶を帯び始めていた。淡い色の濡れた唇は、しきりに乱れた呼吸と細切れの小さな喘ぎを零している。閉じられたままの乳白色の睫毛に汗とも涙ともつかない粒が煌き、本来はゆるい弧を描いている眉は、きゅっと寄って顰められていた。
「あ、ぅっ……み、巳汐、さま……」
 胸元の可愛らしい突起を巳汐の唇についばまれ、夜光がたまらないように身を震わせた。
「そ、そんなふうに、されたら……うごけ、ません……」
 着物をはだけさせた上に夜光を乗せている巳汐の頬は、本来の透けるような青白さよりは若干紅潮していた。僅かに額や頬に汗も浮いているが、表情そのものは普段の淡々とした様と大差はない。
 だがその肌が仄かに上気し、目許に物憂げな艶を纏うだけで、巳汐はぞくりとするほど婀娜めいた色香を増して見える。その切れ長の蒼い瞳が、とても目を開いて状況や巳汐を直視できないという様子の夜光の顔を見上げた。
「動きなさい。それに、おまえは少し抑制することを覚えなければ駄目です」
「そ、んな、こと……言われても……あぁっ」
 なんとかゆるゆると動かしていた腰の奥、最も悦い箇所に、ちょうど蕾に飲み込んだ巳汐のものが当たってしまい、夜光が短い悲鳴を上げた。そこに当たると、腰がどろりと奥から熔け出すような、脳天から爪先まで痺れるほどの強烈な快感が生じる。それは股間にあさましく屹立したものも熱く切なく疼かせ、少し油断したら達してしまいそうなほど身体を燃え上がらせた。夜光は細い喉をのけぞらせて浅い呼吸を繰り返し、なんとかざわめく血流を宥めようとした。
「あ、あっ、やっ……あ、ぁッ」
 巳汐の腰に跨った夜光の臀部に、するりと巳汐の掌が這い下ろされた。つるつるとした可愛らしい尻たぶを掌は撫で、割れ目を爪が撫で下ろす。巳汐のものを飲み込んでいっぱいに広がった襞を、縁に沿わせて指先で撫でられ、夜光がぞくりと肌を粟立たせて背を反らした。前に突き出される格好になったその胸元の粒を、巳汐は再び咥えて、唇と舌で弄び始める。時々綺麗な歯できりと噛まれると、夜光はますます切なげな啼き声を上げた。
「あ、あッ……む、むり、ですっ……みしお、さま……どうか……っ」
 巳汐の手や唇に悪戯されるたびに、無意識にきゅうきゅうと後ろの孔が締まる。下腹に突き込まれた熱いものを己の肉壁が押し包み、捏ね上げてしまうのを、夜光は信じられない思いで感じ取る。ついひと月ほども前までは、自分の身体がこんなふうになるだなんて、こんなに蕩けるほど熱くなるだなんて、思ってもいなかった。巳汐が動いていなくても、下から身を穿つ熱い楔はあまりに感触が淫靡にすぎ、そこから生じる刺激が強すぎ、夜光は涙を滲ませた。
「ひっ」
 動けない尻を、ぴしゃり、と巳汐の掌に叩かれた。
「泣き言は要りません。私に気をやらせなければ、いつまでも終わりませんよ? さっさと動きなさい」
「う……う……」
 夜光は巳汐の肩口にすがり、震える下肢になんとか力をこめて、巳汐のものが抜けない程度に腰を浮かせていった。蜜と香油まみれのそれが、ずるずると下腹の内を擦りながら抜けてゆく感触に、腰が砕けそうになる。夜光は小刻みに震え、奥歯を噛み合わせながら、今度は持ち上げた腰を、ずぶずぶと屹立を飲み込ませながら下ろしてゆく。
 抜ける感触もたまらないが、それが狭い肉道をこじ開けて腹の奥まで入り込んでくる感触は、さらに蕩けるようでたまらなかった。夜光は巳汐の肩にしがみ付きながら、必死で達してしまうことのないよう堪え、苦しげな息遣いと共に腰を動かす。その充血して膨らんだ胸元の粒を摘まれ、くにゅくにゅと揉み転がされると、夜光は泣きそうな声を上げてふるふる震えた。腰の動きが止まると、容赦なくぴしゃりと平手が尻に飛ぶ。夜光は咽び、透明な汗を全身に伝わせながら、懸命に腰を揺らした。
「もっと下腹に力をこめて、強く締めなさい。それでは動きも単調すぎます」
「そ、そんな……もっと、し、しめたら、気をやってしまいそうで……」
 もはや恥じらう余裕もなく、夜光はほとんど泣き声になって言った。頬を真っ赤にし、涙の浮いた紫色の瞳を、巳汐は冷厳な眼差しで見返した。
「お客様にもそれを言うつもりですか? この仕事は、身をもってお客様に御奉仕し、満足いただいて、それによって見返りを受け取るものなのですよ」
「いッ……!」
 ぎり、と陰嚢を掴まれ、痛みのあまり夜光の身が跳ねた。しばらくぎりぎりと締め付けた後に、巳汐はそれを解放してやる。声も出ないほど身を引きつらせて痛みに悶えていた夜光は、がくりと巳汐の肩口に凭れ、荒い呼吸を繰り返した。その声に嗚咽が混じった。
「ここで辞めますか?」
 動くことのできない夜光に、巳汐はさらりと問うた。咽び泣いていた夜光がびくりと強張り、喉を震わせながら息を吸い込んで、弱々しく首を振った。
「では、さっさと続けなさい」
 巳汐の手が夜光の肩を掴み、凭れかかっていたのを引き離した。夜光はふらつき涙を零しながらも、巳汐の肩を掴んで上体を支え、再び腰を動かし始めた。
 痛みを与えられたことが幾分か血潮のざわめきを鎮め、夜光の腰の動きを先ほどよりも大胆にした。もはや何も考えず、無心に腰を動かす夜光に、次第に巳汐の中心も籠もる熱を高め、滾り始めた。
「ああぁっ!」
 巳汐の手が夜光の反り返ったものに伸び、先端から溢れる蜜まみれのそれをぬちゃりと掴んだ。夜光が身を引き絞るようにして震え上がり、だが一瞬止まった動きをすぐに再開する。
 汗まみれの半裸の肌が光り、悩ましく開かれたままの唇からはしきりに荒い息遣いが零れ落ちて、涙の浮いた紫色の瞳はとろりと虚ろに宙を彷徨った。次第に抑えがたく身体が高まり、夜光は無意識のように巳汐を引き寄せて、細い腕でその肩を抱き締めた。そうする間も、角度をつけてうねり、揺らめく腰は止まらなかった。煮え滾るような下腹を掻き回す肉茎が狂おしく熱く、自らの腰の動きに合わせて扱かれるいきり勃った陰茎が、目のくらむような快感に灼熱していた。
 夜光は汗みずくの腰を振りたくって、その奥にある悦楽の核を、とりつかれたように巳汐のものでこすり立てた。夜光の肉壁が激しく蠢動し、巳汐を締め上げる。強烈なその刺激に、巳汐の表情が嫣然と歪み、息遣いを乱しながら奥歯が噛み締められた。
 夜光は自らの下腹の内で巳汐の変化を感じ取り、その昂ぶりを頂点に導くように、いっそう強く締め付けて蠢かせた。やがて申し合わせたように、二人ともの身体が快楽の極みに駆け上がってゆく。行灯の明かりに浮かび上がる重なった影が躍るようにゆらめき、やがて強く抱き締め合うようにしながら硬直した。
 その瞬間、巳汐の喉の奥からは僅かに呻くような声が洩れただけだったが、夜光は全身を痙攣させ、まるで絶命するようなかすれた悲鳴を上げながら、白い熱を迸らせた。
 巳汐の上で夜光はかなり長いこと引きつったままだったが、やがてその全身から力が抜け、がくりと巳汐に凭れた。夜光のぜえぜえと息切れした呼吸や、跳ね上がったままなかなか落ち着かない心拍数が、薄く熱い皮膚を通して巳汐に直接伝わった。その汗びっしょりの薄い背を、巳汐はゆっくりと目を閉じて自身の呼吸を落ち着かせながら、ねぎらうように軽く叩いてやった。
 夜光は指先にも力が入らないように巳汐に全身を預けていたが、その息遣いや体重のかかり方から、意識を失ってはいないようだった。汗に濡れそぼり、乱れ切った乳白色の髪を撫でてやりながら、巳汐はいくらか夜光の呼吸が落ち着いてきた頃、口を開いた。
「……おまえの突出しの時期を考えなければなりませんね」
 息の乱れもほとんど感じられない巳汐の声音に、夜光が億劫そうに動き、重たげに首を上げた。その眠たげな、幼さの残る中にも妖艶とした色香を纏わせた顔を間近に見つめながら、巳汐は続けた。
「まずは私の座敷に、芸子として上がってみなさい。座敷には独特の作法がありますから、何度かそうしてみていくらか馴染んだ後に、花として御披露目をした方が良いでしょう」
「……はい……」
 夜光は乱れた呼吸が尚整わず、何処か瞳の焦点のぼやけたまま、こくりと頷いた。今にも意識が落ちてしまいそうに見えたが、夜光は気丈にそれをこらえ、腰を上げて切なげに顔をしかめながら巳汐の上から降りた。夜光は乱れた単衣を掻き合わせて出来るだけ身繕いをすると、指先を揃えて下に置き、深々と巳汐に頭を下げた。
「ありがとうございます、巳汐様……」
 同じく軽く居住まいを正しながら、巳汐はやや不意をつかれたようにそれを見返した。やがてその表情がいつも通りの淡々としたものに戻り、寝具から少し離して置いてあった水桶に足を運んだ。
「まだ終わったわけではありませんよ。ですがひとまずは、最低限のところは良しとしましょう。おまえもなかなか頑張りました」
「そんなことは……」
 赤みのひきかけていた頬を、今頃あれこれを思い出したのか、夜光はまた赤くした。その細い手に、巳汐は桶から取ってきた濡れた手拭いを渡してやった。
「お疲れでした。今夜はここまでで。それでひとまず拭ったら、歩けるようならたまには自分で歩いて部屋にお帰りなさい。こちらの片付けはしておきますから」
「は……はい」
 夜光は恥ずかしそうに、巳汐から見えないよう後ろを向きながら身体の汚れを拭った。立ち上がって乱れていた単衣をきっちり整えると、夜光はあらためて巳汐に向かい、綺麗に腰を折った。
「ありがとうございます。本当に」
「いいから早く帰って、湯をつかっておやすみなさい」
 素っ気無く言われ、はい、と頷いて、夜光は部屋を出ていった。
 その足取りがどうにもやや頼りなく、巳汐は部屋を片付けてざっと湯浴みをしてから、寝静まった建物の中を静かに歩き、夜光の部屋まで様子を見に行った。
 障子がきちんと閉まりきっていないままの小さな部屋を覗くと、寝床の上に戻るなりそのまま倒れ込んだという格好で、夜光が何もかけずに眠り込んでいた。
 案の定ではあったので、巳汐は熟睡しており目覚める様子もない夜光の身にそっと上掛けをかけてやると、ぴたりと障子を閉めて縁側を歩み去っていった。


 巳汐の座敷に芸子として上がることになった夜光のために、手頃な着物を合わせてみることになった。
 常から夜光を何くれと可愛がっていた楼閣の女性達が、衣裳部屋に集まって夜光を囲み、きゃっきゃと歓声を上げながらあれやこれやの着物をあてがう。おとなしい夜光はとくに抵抗もしないが、賑やかにはしゃぎながらめまぐるしく衣装を着せ替える女性達に、少々戸惑いがちにしていた。
「あら、巳汐さん」
 そんなかしましい中、入り口に下ろされた目隠し布を避けて、ほっそりとした立ち姿の巳汐が部屋に入ってきた。
「巳汐様」
 夜光はその姿に、あからさまにほっとした顔を向けた。瑠璃色の煙管を咥えたままの巳汐は、女性達に軽く目礼しただけで、何も口は開かなかった。
 最玉楼の売れっ子である巳汐は見目麗しく、座敷の外では淡々と無口ではあるがそこがまた良いと、勤める女性達にも人気が高い。物言わず部屋に入ってきて、掛けられた装束をぐるりと見渡したその姿に、女性達はうっすらと頬を染めて肩を寄せ合い、瞳を輝かせながらその動向を見守った。
 巳汐はそれらの空気をまったく無視し、巡らせた視線をぴたりとある一点にとめた。そちらに足を運ぶと、衣桁のひとつから、目にも鮮やかな紫紺色の綺羅を手に取った。
 巳汐は夜光の前まで行くと、無造作に手にしていた綺羅を放った。咄嗟に伸ばした夜光の腕に、ふぁさりと紫紺の色彩が広がる。それは溜め息の出るような光沢のある中に、夢幻の如く舞う蝶と牡丹の柄を美しく散らした一枚だった。
 驚いて目を瞬かせている夜光に、巳汐は僅かな笑みを垣間見せただけで、訪れたときと同様に、物言わず部屋から立ち去っていった。
 きょとんとしたまま夜光が立っていると、巳汐がいる間は控えめに頷きあったり耳打ちしあっていた女性達が、わっとはしゃぎながらその姿を取り囲んだ。
 彼女達は戸惑っている夜光の薄い身体に手早く紫紺の着物を纏わせてしまうと、その仕上がりに口々に満足そうな歓声を上げた。


 その後の夜、久し振りに最玉楼の座敷に上がった巳汐の御付の芸子として、夜光は初めて客人達の前に姿を現した。
 巳汐の海のように深い瑠璃の装束に薄く化粧をはいた優雅な艶やかさには及ばなかったが、花蝶の舞う紫紺の綺羅を纏い乳白色の髪を結った夜光の姿は、芸子達の中でもひときわ可憐で目をひいた。
 着物の色に良く似合う紫色の瞳に魅せられたように、どの座敷の客達も、その初々しくも何処かしら妖艶な姿が歌い舞う様を、惜しみなく称賛した。


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