cats and dogs

‐original BL novels‐



花舞いの岸 (四)

   § : 『INDEX/小説紹介』
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 巳汐に呼びかけられた夜光が、びく、と薄い肩を緊張させた。
 覚悟を決めてはいても、また昨夜のように自分でもわけがわからない状態になるのかと、それを思うと強い抵抗感と恐怖心が湧いてくる。巳汐が何を考えてるのかは、相変わらず分からなかった。深い蒼の瞳も、青白い頬も、表情らしい表情も浮かべないまま、冷ややかに夜光を見つめている。
「夜光」
 もう一度やや強く呼ばれて、夜光は我に返った。呼ばれたらすぐに返事を、と昨日叱られたことを思い出した。
「は、はい……」
 昨夜は巳汐に叱られてばかりだった。巳汐は淡々として声を荒げることもせず、言葉遣いを乱すこともないが、それがかえって夜光には恐い。
 夜光はすっかり強張ったまま立ち上がり、巳汐の正座している傍、すなわち敷かれた寝具の上に移動した。我ながら、踏み出す素足まで震えていた。
 薄い白の単衣を纏っているだけの自分の肩が、やけに寒々しく頼りなく感じる。夜光は巳汐の傍らに正座をし、ぎゅう、ときつく目を瞑って俯いた。
 そんな夜光に、巳汐が溜め息をついた。また叱られる、と、びくりと強張った夜光だが、しかし巳汐からは何の叱責も発されなかった。
 巳汐は静かな所作で立ち上がると、小さな書卓の上に置かれていた香炉を手にして戻ってきた。寝具の傍らにそれを置き、中に火を入れる。すぐに、ふわりと何か甘いような香りが漂い始めた。
「そのように硬くなっていては、身につくものも身につきません。私もやりにくい。少しは力を抜きなさい」
「は……はい……」
 そうは言われても、それで緊張がほどけるなら苦労はなかった。ただ、てっきり叱られると身構えていたものが、思っていたよりも巳汐の声音は柔らかく、夜光は少しだけ胸を撫で下ろした。
 焚かれた香が妙に甘くて、何の香りだろう、と夜光は香炉から立ち昇る薄く白い煙を目で追った。
 その肩に、巳汐の手が伸びてきた。引かれるままに夜光は体勢を崩し、すぐ傍に座った巳汐に凭れかかった。
「あ……」
 巳汐も決して大柄ではなかったが、まだ身体の出来上がっていない少年の夜光を胸元に受け止めることくらいはたやすかった。
 密着する距離になったせいか、巳汐から薄荷に似た良い匂いが幽かに香った。漂う甘い香の薫と混ざり合い、それはやけに官能的な香りとなって夜光を包んだ。
 巳汐のすべらかなひやりとした指先が、夜光の頬にふれた。軽くおとがいに掛かったそれが、夜光の顔を仰向かせる。その唇に、やはりひやりと冷たい、けれど柔らかい巳汐の唇が重ねられてきた。
 突然のことに夜光は驚いて目を見開き、すぐにきつく瞑った。大人になると皆誰かと接吻するものだ、とこれも漠然と思ってはいたことだが、こんな形でそれが我が身に起きるとは思っていなかった。そもそも我が身が「花」となることなど、これも欠片ほども予想していなかったことではあるが。
 思わず逃げ出しそうになった身を懸命に押しとどめると、自然と手脚に力が入った。何をされるのかと夜光は全身を緊張させ身構えていたが、巳汐はその腕に力をこめることはせず、夜光の唇にもごく柔らかくついばむように唇をふれさせ、なぞらせただけだった。その優しい仕種に夜光は戸惑い、そしてふれるごとに体温が移ってあたたかくなってゆく巳汐の唇が、決して不快でもないことに驚いた。
 やんわりと唇を合わせながら、巳汐の絹のように肌触りの良い指が、夜光の頬を柔らかくつつみ、耳の上に落ちかかる乳白色の髪を梳く。その仕種を繰り返されるうち、夜光の肩から、少しずつゆるゆると力が抜けていった。頭の芯がふわりと揺らぎ、次いで背筋が、腰の付け根からぞくぞくと粟立った。
 夜光は妙に思考が緩慢になり始めており、それが怖気や不快感からくるものではなかったことを自覚はしたが、では何なのかということを考えることはできなかった。
 その夜光の変化を感じ取ったのか、巳汐の仕種が変わった。夜光の唇をただついばむだけだった唇から濡れた舌が這い出し、探るようになぞり始めた。それと共に、夜光の単衣一枚だけの襟元に、巳汐の指先が入り込んだ。首筋をなぞり、乳白色の髪の下をくぐって、くすぐるようにうなじを撫でる。
「あっ……」
 ぞくっ、と妖しいざわめきが走って思わず夜光が首を竦めたところに、それに巧みに合わせて唇がより深く重ねられた。思わず開いてしまった唇の隙間から、巳汐の舌が口内に入り込んでくる。驚いて夜光はもがきかけたが、その薄い背に、逃れることを封じるように強く腕がまわされた。上から深くかぶせられた唇に大きく夜光の顎が仰向き、身動きのできない中、巳汐の舌がまるで生き物のように口腔内を這い回った。
 夜光は初めてのことに混乱しかかり、だが全身に漣のような性感の痺れが繰り返し生じて、かっと頭から指先にまで熱がともった。深く合わせた唇の隙間から吐息のような息遣いが零れ、目を瞑っているのに視界が回る気がした。
 抱き寄せられたまま身動きできず、そのうち巳汐が至近距離から囁いた。
「……私のすることを真似てみなさい」
 落ち着いたその声音は耳にしっとりと馴染み、夜光が薄く目を開くと、目の前に吸い込まれそうに深い蒼色の瞳があった。何かを考える余裕もなく、再び深く唇が重なってきた。
 全身がぞくぞくと粟立ってやまず、心の臓が痛いほど強く鼓動し始めていたが、夜光はかろうじで巳汐の言ったことを耳に受け止めた。とてもこちらから巳汐にふれ、自分がされているように髪や首筋を撫でることはできなかったが、その分懸命に唇を開き、舌を伸ばして動かしてみた。
 巳汐の舌が自分の口腔内でそうするように、夜光の方からも舌を動かして、巳汐のそれを追う。頭がぼんやりして、他人と口を合わせて舌を絡め合うことに、不思議なほど何の嫌悪もなかった。ただ火がつき始めた本能に導かれるように、巳汐の柔らかな舌に舌を絡め、こすり合わせてぴちゃぴちゃと吸う。その舌の根や上顎、歯茎に舌を這わせてみる。身動きできないほど抱き締められ、巳汐の舌に同じようにそうされることが、うっとりと陶酔するほど心地良かった。
「……っぁ、はぁ……は……っ……」
 長く深い接吻がようやくほどけたとき、夜光はすっかり息が弾んで全身が汗ばんでいた。そのまだ幼さの残る目許がとろりと朱色を帯びて、指が我知らず巳汐の単衣を握り締めていた。
 漂う甘い香りに、夜光は頭がくらりとした。このときになってようやく、夜光はこの香りが何かおかしいことに気がついた。この香りを深く吸うと、夢の中のように頭がふわふわして、身体の芯が妙に熱くなる。その熱さが身体の中心にひときわ強く集まっていることを、夜光は自覚せずにいられなかった。そこは昨夜、生まれて初めて自分の身体がそうなるのだと知らされた箇所。性感の震えに目覚めた全身から血流が集まり、既に下半身が熱く滾り始めていた。
「み、巳汐様……か、からだが……」
 自分で自分の熱を持て余し、夜光は何を言いたいのかも分からずに巳汐に訴えた。身体が熱いのは分かるけれど、どうしたらいいのか分からない。ただ助けを求めるように縋り付いた夜光の喉元に、巳汐は唇を押し当てた。
「そのまま逆らわずに」
 ひりつくほど敏感になっていた素肌に、巳汐の柔らかな唇と、這い出してきた舌の濡れた感触をはっきりと感じ、夜光は目を見開いた。蛇が這うように丹念に舐められた素肌を、次には強く吸い上げられる。ぴりぴりと走った痛みすら快感にすりかわり、夜光は短い悲鳴を上げ、慌てて自分の口を掌でふさいだ。自分の身体が明らかに熱い反応を始めてしまっていることが分かっていても、あられもない声を上げてしまうことが恥ずかしく、それを自分で聞きたくもなかった。
 夜光は褥に倒され、単衣の襟元を押し広げられた。首筋から鎖骨の上に、胸板の上に、神経が剥き出しになったように、巳汐の唇と舌が辿るのを鮮明に感じる。巳汐の長めの髪が素肌をかすめるのにすら、官能を帯びて身が震える。
 巳汐は夜光の真白い肌に赤い痕を刻むのとあわせて、指先もその素肌にすべらせた。薄く細すぎる脇腹や、帯を緩めた腰まわりに、反らされる背筋に、細かく引きつる太腿に、絶え間なく指が遊ぶ。全体に巳汐の仕種は昨夜よりもはるかに優しく、逆らいようもなくゆるやかに、夜光を甘美な悦びの坩堝に引き込んでいった。
「ぅ……ん、っ……」
 懸命に口を掌で押さえ、上がりそうになる声を抑えるうちにも、夜光は腰を揺らし、薄い胸を物欲しげに反らしてしまっていた。巳汐は夜光の敏感な柔肌をしきりに愛撫しながら、胸元の粒には決してふれてくれない。滾る一方の股間にもふれてくれない。痺れるように刺激を待ち侘びる胸が、身体の中心が切なくて、疼く。昨夜初めてそこに性の悦びを覚えたばかりの夜光は、自分の身体の露骨な欲求に自分で戸惑い、あまりにもはしたないと、耳朶を真っ赤に染めた。
「ふれてほしいですか?」
 小刻みに震えている夜光に、巳汐が落ち着いた眼差しで尋ねた。どこに、とは言わない。熱く疼く身体の切なさに、夜光は真っ赤になりながら、薄く涙すら浮かべていた。掌で押さえた口元からは、すっかり乱れた呼吸が洩れている。
 夜光は何をどう答えれば良いのかも分からなかった。血流が熱く滾り、顕著に膨らんでしまっている部分が、そこへの刺激を欲していることは分かる。だが、そこにふれてほしいと意思表示することは、あまりにも恥ずかしくあさましい。
 夜光の胸元には、二粒の突起がその可愛らしい乳輪から、愛撫を待ち侘びるように濃く色付き、ぷくりと膨れていた。雪のように穢れなく白い肌に、はだけた単衣が悩ましく絡み、行灯の明かりにゆらめく陰影が美しい。成長の過渡期にある夜光の身体はまだ柔らかく、残滓のような幼さが、恥ずかしそうに身を竦めるその姿を、むしろ見る者の目を煽るようにいっそう妖しく魅せていた。
「やっ……」
 巳汐の指が、ぷくりと膨れた胸元の粒を、一度だけごく軽く押した。たったのそれだけのことで、夜光はびくりと身を強張らせ、きつく目を瞑った。
「ふれてほしければ、そうおねだりするのですよ」
 至近距離から囁かれ、夜光の瞳から涙があふれてぽろぽろと頬に伝った。そんなことがどうして出来るだろう。もともと夜光は、ただでさえ自分の望むことを表に出すことが苦手だった。ましてこんな、淫慾に滾る身のあさましさを思うと、それだけで今すぐ消えてしまいたいほど惨めで恥ずかしい。頭に血が昇り、ものをまともに考えられなくなってきた夜光は、口元を押さえて泣きながら、ただふるふると首を振った。
「夜光」
 巳汐の手が、褥の上に新雪が陽光を受けたような煌きを散らす夜光の髪にふれた。びく、と夜光が、今度は「また叱られる」という恐怖のために強張った。
「廓では、自分が自分であることはお忘れなさい」
 耳元に語りかけられた巳汐の声音は淡々としていたが、それ故に混乱しかかっていた夜光の耳に、すんなりと届いた。
 夜光は、泣き濡れた紫の瞳を開く。巳汐の深い蒼の瞳は、やはり何を思っているのかはまるで見通せなかった。だが髪を撫でるその手つきは、夜光が身構えていたよりもずっと柔らかかった。
「おまえには望みがあるのでしょう。それを叶えることを思って、ここにあるのは自身ではなく、廓に身を捧げた花であるのだと、すべてを切り替えなさい。お客様の中には、私たちを殊更悩ませたり、辱めることに悦びを見出す方もいます。それに正面から堪えるのは辛い。ですがそういう相手ほど、気に入られれば糸目をつけず贔屓にしてくれるものです」
 夜光を覗き込む巳汐の瞳の蒼さが深まったように見えた。多くの深淵を覗いてきた、暗く強い光を宿す蒼さだった。
「すべてを呑んでかかりなさい。それができないのなら、花になることなど辞めておしまいなさい。それではおまえばかりでなく、おまえを慈しむ者も不幸になるばかりですから」
 平坦な巳汐の声音は、夜光の頭の奥を冷ますように沁み込んでいった。
 巳汐の言葉のすべてが飲み込めたわけではなかった。だが静かなその言葉には、おそらく巳汐自身が苦心しながら掴み取ってきたのだろう、心の深みに響く重みがあった。身体の熱さは変わらないが、切り替えなさいと言われたことが、かちりと音を立てるように夜光の中に嵌まり込んだ。
「あ……」
 見開いた紫の瞳から、またぽろりと涙が落ちた。夜光は口元を押さえていた手を外すと、ぐっとひとつ、涙を飲み込むように息を吸った。それからおずおずと、自分の上にいる巳汐に指を伸ばし、縋りつかせた。
「ど……どうか……夜光に、ふ……ふれてください……」
 かあっと頭が熱くなって、震える声でそれだけ言うのがやっとだった。恥ずかしくて恥ずかしくて、横になっているのに目が回りそうで、ぎゅうと瞼を閉じる。真っ赤になったまま身を竦めてぶるぶると震えていると、自分の上にいる巳汐が静かに動く感触がした。
「あっ……」
 夜光の充血しきった胸元の粒に、ぺろりと巳汐の舌先がふれた。くにくにと舌先で転がされ、唇で食まれ、もう片方の粒も指で摘まれ弄られる。それと共に、巳汐の手は下半身にも伸びてきた。あっと思ったときには、乱れて緩んでいた前合わせの下に難なくするりと入り込んできた巳汐の手が、夜光の燃え上がるように滾っていたものを、素早く握り込んでいた。
「あ、あッ……や、ぁッ!」
 びりびりと突き抜けるような快感が走り抜け、夜光は思わず腰を突き上げていた。夜光は反射的にもがいたものの、とろけるような快楽に既に絡め取られていた手脚には、震えるばかりで力がろくに入らなかった。
 巳汐の肌触りの良い掌は、夜光の中心で杭のように硬く熱く上向いたものを、やわやわと扱く。その先端からはとろりとした蜜が零れて、扱くたびに巳汐の指に、熱い肉茎にからみ、しめった淫らな音を立てた。それを耳にとらえた夜光は、息もできないほどの羞恥心と、抗いようのない灼熱する疼きに一度に襲われた。
「あぁ……み、みしお、さまっ……あつ、い……あ、あっ……」
 声をこらえることも忘れてしまって、夜光は喉を喘がせてうわごとのように口走った。熟れ切った乳首も舌と指とで嬲られ、かりっと軽く歯を立てられることすら、痺れるような快感となる。夜光はいつしかしっとりと汗に濡れた肌を絖のように光らせながら、陸に上げられた魚が跳ねるように、褥の上で身悶えていた。
「夜光」
 与えられる快楽にうっすらと涙を浮かべ、焦点の合わない紫色の瞳を彷徨わせている夜光に、巳汐が言い聞かせた。
「自分の身体が今何をされているのかを、よく覚えておくのです。おまえもいずれ人に与えるようになるのですから」
「み、……しお、さま……」
 身体が抑え難く昂まってゆくにつれ、上ずった小刻みな息遣いになるのを止められず、夜光は懸命に声を返した。巳汐の冷静な声が、少し油断したらたちまち極みに押し上げられてしまいそうな身体を、僅かな理性でつなぎとめる。
「私の指と唇が、おまえのどこをどうしているのか。それをよく感じ取って、覚えなさい。自分の身体の反応を覚えなさい。人によって差はありますが、悦いと感じたときに見せる反応には大差はありません」
「は……は、い……あっ、うああぁっ」
 かろうじで巳汐の言葉に頷きながら、赤裸々な言葉に煽られるように、夜光は珠のような汗の光る身をのけぞらせて喉から高い声を放った。細い四肢が痙攣して張り詰め、堪えきれずにその股間が熱い飛沫を迸らせた。
 がくりと脱力し、ぜえぜえと頼りなげな胸板を上下させている夜光の脚が広げられ、さらに下の秘孔に巳汐の指が這わされる。そこをまさぐられて啼きながら、しかし夜光は決して拒絶の言葉は吐き出さなかった。夜光の桜色の唇は慎みをすっかり忘れてしまったように綻び、巳汐の愛撫を股間に、身体の奥に受けて、ただ甘い喘ぎを零し続けた。

 充分にほぐされた熱い蕾に巳汐のものをあてがわれ、初めてそこを割り裂かれても、夜光は痛みに悲鳴は上げたが、抵抗はしなかった。
 生身に灼熱する棒を打ち込まれ、内臓ごと掻きまわされるような苦しさと痛みに、夜光はひたすら奥歯を食いしばって、本能的に逃れそうになる身体を巳汐にしがみ付かせた。あまりの苦痛に遂には気を失ってしまっても、最後まで夜光は、嫌だとは言わなかった。
 蒼白になって意識を無くした夜光の、言いつけを破って噛み切ってしまっていた唇に、巳汐はやんわりと唇をあてて、そこに滲んだ赤い色を拭ってやった。


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