cats and dogs

‐original BL novels‐



花霞に潤む月 (四) -完結-

   § : 『INDEX/小説紹介』
▲「妖は宵闇に夢を見つ」シリーズ 目次へ

1 2 3 4

<< 前のページ


 陽が翳るよりも早い時分に長は去っていったが、その後葵はやけに脱力してしまった。
「なんだか疲れたな……」
 長には悪気も悪意もないと分かってはいるが、葵にとって長はどうしても気を遣う相手ではある。まして今日は、あんなわけの分からない悪戯まであった。
 くたびれた様子の葵に、夜光もそれを察してか「ゆっくりしていて下さい」とだけ言い置いて、そっとしておいてくれた。
 夕餉の支度を始めた夜光を、葵はぼうっと炉辺に座って眺めていた。
 妓楼である最玉楼で長く「花」として暮らしてきた夜光だが、礼儀作法に通じ芸事に達者なばかりではなく、家事炊事も含めて身のまわりのことはほぼ完全にこなせる。それは夜光が「自分のことくらいは出来て当然」だと考えているようなのと、立ち働くこと自体が苦ではなかったからのようでもあった。
 家のことを片付ける夜光を、これまで葵も何度も手伝おうとしたものの、葵がよほど暇を持て余しているときでもなければ、夜光は決まって笑顔でそれをかわした。
「ふせっている間、ずっとおまえさまに世話をかけていましたから。それに、少しでもおまえさまの役に立てることが嬉しいのです。ですから私にやらせて下さい」
 夜光が心からそう言っているようであることを察してからは、葵もあまり強くは言わなくなった。
 思えば完全に二人だけの生活というのは、この庵に移ってからが初めてだった。終の涯にいた頃も、守護代の屋敷に世話になっていた頃も、夜光は自分達のためだけに立ち働くということはしていなかった。
 この小さな庵で、片付け物や掃除、繕い物や食事の支度などをしているときの夜光は、いつになく表情が穏やかで幸せそうに見える。そんな夜光を眺めることが、ささやかな幸せを噛み締めるように、葵にも嬉しかった。
 食事の材料はどうしてもあり合わせのものになるが、夜光の作ってくれるものは、どれも葵の口に合った。終の涯に流されたばかりの頃は、夜光の作ってくれた粥などを食べていたが、考えてみれば夜光の手料理というのはそれ以来だった。
 葵が料理を褒めると、夜光は決まってほんのりと頬を染めて俯いた。嬉しいのだがどう反応していいのか分からない、というようなその様子がまた可愛く、葵はますます笑ってしまうのが常だった。
 守護代の屋敷を出ることになった経緯は哀しくはあったが、こうして二人だけの落ち着いた時間を持てるようになったことは、そう悪くもない。
 穏やかに流れ始めた日々の中で、葵も夜光もそう思えるようになっていた。


 日没が早い分、夜が深まるのもより早いように感じる。
 妙な気疲れもあったことだし今日は早めに横になろうかと、葵はいつもより浅い時間のうちに、板の間の奥に二枚だけ敷かれた畳の上に寝床をしつらえた。
 寝むときには、長が以前寄越してくれた帷幕(とばり)を、周囲に几帳のように巡らせている。不思議なまじないのかかった帷幕は、そうするだけでもかなり寒さを防いでくれるため、火鉢などを焚かなくても内に入ってしまえば凍えることはなかった。
 葵が先に寝床に入ってうとうとしていると、じきに帷幕の外に灯っていた紙燭の明かりが消え、夜光がそっと内側に入ってきた。
 あまり広くもないので、二人はいつもひとつの寝具に一緒に横になっている。夜光が遠慮がちに上掛けを持ち上げ、寝床に入ってくると、葵は半ば夢うつつに瞼を持ち上げた。
「……ん」
 夜気に晒されて冷えている夜光の肩を、葵は蒲団の中に引き込むように抱き寄せた。月明かりが青白く差し込む中、夜光の乳白色の髪が、葵の目の前で夢のように儚い光を散らした。
 葵は無意識にその髪を撫で、夜光の頭を深く胸元に抱え込んだ。心地良い眠気の中で、葵は夜光の額の、昼までは角があったあたりに掌を辿らせた。
「角も可愛かったが、この方が撫でやすいな……」
 夜光がどんな姿をしていても、葵が夜光を愛しく想う気持ちは変わらない。とはいえやはり、なんとなく一番しっくりくる姿というのはある。
「わ、私は子供ではありません。撫でやすいだなんて、そんな」
 夜光が頬を赤らめて軽く抵抗したが、そうしたときの夜光は照れているのだと既に分かっている葵は、笑いながらぎゅっとその細い身体を抱き締めた。
「子供だなんて思ってない。ただ、こうしているとほっとする。駄目か?」
「だ、駄目では……ありませんが……」
 軽くからかい混じりのように、けれど沁み込むような優しい声で問われ、夜光はますます夜目にもはっきり分かるほど目許を赤らめた。
 子供とは思っていない、といいながら、そんな夜光が子供のように初々しくて、葵は飽きずにその乳白色のさらりとした髪を撫でた。そうされるうちに、やがて夜光も、おとなしく葵に身を寄せて力を抜いた。
 そのうち夜光が身じろぎし、肘をついて顔を起こした。夜光は寄り添うようにしながら身を乗り出し、葵の唇にふわりと花びらがふれるように、唇をふれさせた。
 夜光は葵の肩を軽く押して、横を向いていたのを仰向けにする。ぴたりと寄り添ってくる夜光の身体の暖かさや重さが心地良く、葵はあえて逆らうこともしなかった。
 そんな葵に、夜光はさらに身を乗り出して、締まった頬や顎に、やんわりとした口付けを繰り返した。
「夜光……?」
 頬にふれてきた夜光の掌が、いつもはもっとひやりとしているのにあたたかく、葵は目を開いた。葵の顔を、ごく間近から夜光は覗き込むようにしていた。青白い月明かりに、その紫の瞳は虹彩がいっそう深く煌めき、はっとするほど切なげな艶を灯らせていた。
 夜光が再び寄せてきた唇を、葵は自然に受け入れた。葵から求めることの方が多いが、夜光の方から求めてくることもないわけではない。夜光の唇も肌も、何もかもがしっとりと甘くて気持ちが良い。はじめは柔らかく、そのうち深く唇を重ね合わせるうち、葵も夜光の薄い背に腕をまわしていた。
「……疲れているでしょうし、今宵は葵はそのままで」
 深い口付けをほどくと、その名残りに濡れた唇で夜光が囁いた。夜光の白く細い指が、葵の軽く纏められた長い黒髪を梳く。指に黒髪を絡ませたまま、夜光の掌が葵の頬を包んだ。
「今宵は、私の好きなように……私に、おまえさまにふれさせて下さい」
 夜光の切なく熱く潤んだ瞳と声音が、葵の背筋をさわりとくすぐった。夜光から求めてくることはあっても、そんなことを言われたことは初めてだった。
 自分の上に乗っている夜光の、着物越しに伝わってくる熱や体重が心地良く、夜光が自分にそうしているよう、葵はその頬を掌で包んで微笑した。
「おまえの好きにしていい」
 夜光が言葉のかわりのように、また葵に唇をふれさせた。
 全身で体温を感じていたいように、夜光はぴたりと葵に身を寄せる。葵の頬から耳元に唇を辿らせながら、その寝間着の襟元をはだけさせてゆく。夜光の唇や指先が肌にふれ、ひそやかな吐息がかかるたびに、夜光のやりたいように任せようと目を閉じていた葵は、皮膚の下を巡る血流があやしくざわめくのを感じた。
 胸元がはだけかかったところで、夜光がつと身を起こした。何だろうと思う間もなく、葵の腰を締めていた帯を、夜光の手がほどく。
 夜光がやんわりと葵の腕をとらえ、その頭の上に押しやったときには、葵はさすがに目を瞬いた。
「夜光?」
 頭の上に持ち上げられた葵の手首に、ごく柔らかくではあったが、しゅるりと夜光が帯をまわした。力を込めれば抜けそうな程度の、緩い拘束。緩くはあったが、夜光がなぜ急にこんなことをしたのかの意図が掴めず、葵は逆らいはしなかったものの困惑した。
 葵の手首にまわした帯に、夜光の指がふれ、そのまま帯ごと手首を押さえた。
「おまえさまに、私以外の誰がふれるのも。おまえさまが私以外の誰にふれるのも、厭です」
 吐息のかかりそうな距離から、熱にうかされたように潤みを増した夜光の深い紫の瞳が、葵の黒い瞳を見つめた。
「夜光……」
 その囁きにふと葵は悟るものがあったが、夜光はそれ以上とくに続けることはせず、ふくりと水分を含んで感触の良い唇を葵の首筋に押し付けた。
 爪の先で軽く掻いただけでも疵ついてしまうのでは、というほど繊細ですべらかな夜光の肌と違い、葵の肌は健康的で、やや硬く引き締まっている。それでも首筋や、普段は着物の下に隠されている素肌は柔らかく、夜光がふれるたびに敏感な反応を見せた。
「う……」
 緩いとはいえ身動きを制限されていることに抵抗感はあったが、葵は目を閉じて、あえて夜光にされるままになった。夜光の唇が葵の耳朶を軽く食み、首筋を伝い降りて、鎖骨まわりや襟をはだけた肩に繰り返し口付ける。既に尖り始めている胸板の上の小さな突起を、夜光の歯がごく軽く噛むと、葵は声は抑えたものの思わず震えた。
 夜光は葵の胸の突起に愛しむように舌と唇を遊ばせながら、白く繊細な手を、着物をはだけた下にもぐり込ませた。
 脇腹や腰まわりをそろそろと撫でられ、葵の中心にいよいよ熱い血が集まり始める。葵の呼吸が次第に熱を帯び、体温の上昇を示すように引き締まった身体に汗が滲んで、静謐な月明かりに光った。
 葵は以前もこんなふうに、夜光に拘束され組み伏せられたことがあった。あのときは今のような甘い営みではなく、夜光の様子は闇に棲む魔性そのもので、葵は背筋も凍るような恐怖の中で翻弄されるしかなかった。
 そのときのことを思い出しても、葵の中に拒絶感や怖れはわいてこなかった。今自分にぴたりと身を寄せて、しきりに甘く熱い吐息と共に口付けを繰り返してくる夜光からは、肌身を通して切ないほどの愛情ばかりが伝わってきていた。
 長の悪戯だったとはいえ、庵に帰ってきたときの夜光の目には、あのときの光景は葵が見知らぬ女性と戯れているというふうにしか映らなかったのだろう。夜光は普段は静かに微笑んでいるばかりで、感情をあまり強く見せることがない。そんな夜光が嫉妬の感情を覗かせたことが、抑えておけないように葵を求めてきたことが、そのすべてを受け止めて抱き締めたいほど、健気で愛しかった。
 帷幕に囲われた狭い中に次第に熱が籠もり、身動きする衣擦れの音と、次第に乱れて零れ落ちる息遣いだけが、しんと静まり返った夜気をさざめかせる。
「……っ……」
 なすがままになっていた葵だが、夜光が口付ける位置を少しずつ下げ、やがてその柔らかな手が葵の中心で滾っているものにふれてきたとき、ひくりと腰を動かした。
 既に充血してじんじんと疼きながらすっかり上向いていたそこを、きゅ、と夜光が優しく握る。その熱さと硬く反った感触を確かめると、夜光は妖しいほどに色香を帯びた顔を、幽かに綻ばせた。
「そのまま。動かずにいて下さいませ」
 夜光はいつになく熱を宿した声音で囁き、葵の股間に顔を伏せた。白く細い指が、月明かりの中にいっそう赤黒く存在を主張して見えるものに絡む。色の淡い唇が、その竿の根元から先端にまで、愛しげに何度も押し当てられる。
 夜光の手には葵の鈴口からこぼれ出していた先走りの蜜が纏い付き、紫色の瞳がうっとりとそれを見つめた。
 一通り口付けたあと、夜光の唇から濡れた舌が這い出し、葵の陰茎にぴちゃりとふれた。夜光は酩酊したように、両手の指と唇と舌とを駆使して、血管の浮いた葵のそこに本格的に奉仕し始めた。
「う、……くぅ……」
 動くなと言われた葵は、拘束された手を握り締めて、熱く燃え上がる身体を懸命に抑えた。
 終の涯の遊郭の花であった夜光の技巧は、本気でかかられたら葵にはとても太刀打ちできないほど、身体の芯からぞくぞくと官能をなぞり上げる。まして睦み合ううちに弱い箇所を知られてしまっていれば、愛撫されるままに昂ぶる身体をとどめることなどできなかった。
 やわやわと袋を揉まれ、屹立したものを扱かれ、唇に含まれて舐められ吸われるうちに、葵のそこははち切れんばかりに勃起し切った。いつしか呼吸は浅く速くなり、幾度となく腰が震えた。
 しかし葵の滾りがいよいよはじけそうになると、夜光はすっと唇と指を遠ざける。そして唾液と蜜にまみれてぬらぬらと光っているものに、悪戯のように軽くふれる程度の接吻を与えた。
「は、っ……は……ッ……く」
 そんなことを何度か繰り返され、葵は真冬だというのにすっかり汗まみれになって喉を喘がせていた。腰が灼熱して目がまわりそうで、どくどくとこめかみと心の臓が脈打っている。できるだけ身を動かさず、そして思わず洩れてしまいそうになる声を抑えることに必死で、言葉らしい言葉を発することもできなかった。
「葵……」
 その様子を、夜光が陶然と見下ろした。夜光自身の呼吸もいささか乱れ、滲んだ汗に額や頬にかかる乳白色の髪が湿っている。自らも快楽の中にあるようにその表情は婀娜めいて、とめどなく湧き上がる情欲に瞳の奥が妖しく耀いていた。
「まだ、もうすこし……」
 夜光はかすれかけた声で囁き、自らの単衣の寝間着の帯をほどいてはだけさせた。白い裾がふわりと開いて、大きな花びらが飲み込むように、夜光は葵の腰の上に跨った。
「ん、っ…………」
 夜光の白い指が葵のものに添えられ、開いた脚の付け根から少し後ろにずらしたところに、ぬるぬるとしたその先端をなすりつけた。夜光自身の滾りから伝い落ちていた蜜も絡んで、そこにある小さな窄まりは充分に潤い、そして一刻も早く愛しい人のものを迎え入れたいようにひくついていた。
 夜光は葵のものに手を添えたまま、位置を合わせて腰を落とし始めた。
「あっ……あ、あッ……」
 己の狭い中に割り込んでくる熱と硬さに、夜光はたまらないように喉をのけぞらせた。ずぶずぶと夜光の中に呑まれてゆく感触に、葵は全身を強張らせて、声も上げられずに奥歯を噛み締める。夜光の中は脳髄までとろけるように熱くうねって、油断したら一瞬で気を持っていかれてしまいそうだった。
 やがて葵を根元まで己の中に埋めてしまうと、夜光は呼吸を弾ませたまま、少し身を落ち着かせるように動きを止めた。
「葵……」
 滴るような色欲に溺れた紫の瞳が、己の下にいる葵を捉える。夜光は大きくはだけた白い単衣を腕に絡ませたまま、その折れそうに細い上半身をそっと屈めた。
「おまえさまは、私だけのもの……」
 夜光が間近から囁く声を聞き、葵はやっと瞼を開いた。夜光の指が葵の頬をたどり、その乱れて早い呼吸を繰り返す唇をなぞった。
「……夜光……」
 言葉で返すまでもなく、葵の熱せられ潤んだ瞳にも、夜光の囁きにこたえて強く求め返す光が揺らめいていた。
 そのまま熱い唇が重なり、深く舌が絡まり交わった。貪るように口付けあいながら、夜光が緩く腰を動かし始める。その動きは徐々にせわしなくなり、既にたまらないほど灼熱した互いの身体に、じきにどちらも唇を合わせておく余裕を失った。
「あ、あッ……あっ……!」
「く……う、……ッ」
 夜光の望むようにさせようと、葵は拘束されたままの手を握り締めて懸命に堪えた。夜光の腰のゆらめきは互いの繋がりあった箇所をひどく熱く刺激し、身体が芯からぐずぐずに熔け崩れてしまいそうなほどの悦びが襲う。葵のものが夜光の下腹を奥まで穿って、蠢き締め付けてくる狭い中を掻き回す都度、乱れた息遣いと共に濡れた淫靡な音が暗い部屋に響いた。月明かりに浮かび上がる夜光の白い身体が幾度もしなって震え、葵の胸や腹の上に玻璃の珠のような汗が滴った。
 やがて遂に葵に限界が訪れ、夜光も葵にしがみついて、痙攣しながら細く悲鳴じみた声をその喉から迸らせた。
 どちらもしばらくの間身動きできず、ぐったりと重なった胸の中に強く速く脈打つ鼓動が、どちらの音なのかも分からないほど響き合っていた。
 そのうち夜光が葵の上で弱く身じろぎし、汗に濡れそぼった顔を持ち上げた。夜光の目許はまだとろりとした色香を帯びたままだったが、その瞳は夢見心地のようにやわらいで、先程までの妖しく強い耀きは失せていた。
「葵……」
 夜光が指を伸ばし、葵の頬にふれた。
 手首を拘束されたままの葵は、ずっと腕を上げて力をこめていたために肩がすっかり強張っており、息も切れていてすぐに動けなかった。達した後の急速な脱力感と眠気に、夜光が柔らかく髪を撫でる感触も手伝って、ますます引き込まれそうになる。
「葵、……かわいい」
 そんな葵を見て、夜光が頬をふわりと笑み崩した。その思わずこぼれたような言葉に、さすがに聞き捨てならず、葵がようやく瞼を持ち上げた。
「……かわいいはずが、あるか」
 夜光は首を傾げると、ますます柔らかく甘い花のような微笑を含んだ。葵の頬に、夜光の唇がふれた。
「そんなおまえさまも、私は好きです」
「……うん」
 腑には落ちなかったが、夜光が幸せそうにそう言ってくれるのであれば良いかと、葵は複雑な顔をしながらも頷いておいた。
 夜光が葵の手首から帯を解いてくれて、やっと腕が自由になると、葵は痛む肩をそろそろと動かしながら、自分の上にいる夜光の身を抱き締めた。夜光の肌からは仄かに甘いような良い香りがして、葵はその細く頼りない、けれど熱い身体の重みに、ほっと深く息を吐いた。
「俺も、おまえ以外とこうしたいとは思わない」
 汗に濡れそぼった乳白色の髪を撫でてやりながら言うと、夜光が顔を上げて葵を見つめた。その紫水晶のような瞳が、淡く揺らめくように月明かりを滲ませる。それを隠すように、白い顔がまた伏せられた。
「……はい」
 ただかぼそい声で、夜光が頷く。泣くのをこらえているようである薄い肩の震えが愛しくて、葵は微笑しながら、夜光の身体を抱き締め直した。そして乱れた髪の間に隠れている夜光の耳元に、湧き上がってきてやまぬ想いを囁いた。
 夜光がやっと、泣き笑いのような顔を上げた。葵にしがみつくようにしながら、恥ずかしそうに、ごく小さな声で、その唇が囁き返した。
 私もお慕いしています……と告げたその声は、どこまでも甘くやわらかく、部屋を満たす月明かりの中にとけていった。


 (了)


<< 前のページ


▲「妖は宵闇に夢を見つ」シリーズ 目次へ




web拍手 by FC2
▲コメント(拍手)&返信欄
コメント大歓迎、お気軽にどうぞ!