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‐original BL novels‐



エレクシオン (1)

   § : 「エレクシオン」 メビウスの蛇 後日談1
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【約30,500文字、読了時間約61分】
後日談/架空世界/王侯貴族/主従/サディスト/倒錯/拘束/溺愛/選択と決断/誓い/
「メビウスの蛇」本編以後、二人が帰国した後の後日談です。
R18要素が含まれるのは1話目のみですが、全体に二人の仲は深まっており、本編に比べれば随分甘い関係になっています。
いくつかのエピソードを連ねたような内容になっており、後半はわりとシリアスです。



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 その国においては長い冬がようやく過ぎ去り、陽が落ちてからの冷え込みもかなり緩んだ頃。
 広く豪奢な寝台の上にうつ伏せに押しつけられたユアンは、まだ少しひやりとする夜気も忘れ、全身に薄く汗を滲ませていた。
 贅肉のない身体を普段は隙なく覆っている衣服は、すべて取り払われている。本来は陶器を思わせるほど血色の通わない褪めた肌色は、燭台の暖かみのある明かりのせいばかりでなく、今は随分赤みを増していた。
「う、……う」
 自由に動かせない身体と、その下半身に執拗に与えられ続けている刺激に、ユアンの唇からいくつもの理由が絡んだ呻きが落ちる。快楽と、羞恥心と、抵抗。身も心も捧げた相手に愛されることを嬉しいとは思うが、その相手はことさらにユアンを辱め、追い詰めることに悦びを見出す性質だから、いわゆる「まっとうな」抱かれ方をすることがほとんどない。
 今もユアンは、身体の前で両手首にがっちりと革製の枷を嵌められていた。うつ伏せた身を肩で支え、大きく腰を持ち上げる体勢を強いられているため、腕が身体の下敷きになっている。
 無骨な枷に捕らわれて動かせない自分の手首が、ちょうど腰を突き上げる為に立てた膝の間に来る。そのせいで膝を閉じることもできないが、左右の足首も枷と鎖で繋がれている為、足を開いて膝を崩すこともできない。ユアンは楽とは言い難い体勢のまま、ろくに身動きもできなかった。
 こんな格好を強いられるだけでも、首筋まで真っ赤になるほど恥ずかしくてたまらない。これでは尻も何もかも丸見えだろう。
「今日はまた一段と反応が良いな、ユアン。存外にこれが気に入ったのか」
 そんなユアンに、フィロネルが飽きもせずに愛撫を施している。ユアンは皇子の寝室に呼ばれると、たいていすべての衣服を剥がれるが、高慢で美しい皇子はせいぜい前をはだける程度で、ほとんど服装を崩さない。真っ裸の自分との対比が、ユアンにはなんとも不公平に思える。
「そ、そんなわけが、あるか……う、っく……」
 狭い後ろの孔に入り込み、熱い内臓を直接撫でてくる皇子の指に、ユアンは反論しながら懸命に声をこらえた。フィロネルは窄まったユアンのそこに長い指を抜き挿しさせながら、その汗ばんだ腰まわりを撫で、へこんだ臍をくすぐり、皮膚の薄い尖った腰骨を甘噛みする。身体の奥にある最も感じやすい悦びの火種に皇子の指がふれてくると、ユアンの腰がびくんと跳ねる。
「っ、そこは、だめだ……っ」
 たっぷり香油を絡ませた皇子の指は、ユアンのこの上なく繊細で敏感な肉壁の中を、ぬるぬると自在に蠢く。こんな有様で感じている自分が、ユアンはますます淫猥であさましく思えてたまらないのに、弄られるほどに身体は蕩けてくる。鼓動が乱れて脈打ち、上がってくる呼吸をどうにもできない。
「ほう。そう言うわりに、さっきから腰が揺れているようだが」
 葛藤しながらも耳まで赤くして震えるユアンの様子を、フィロネルの鮮やかなアメジスト色の瞳は、いかにも愉しげに見下ろしている。それがまた、ユアンには恨めしい。だが自分にふれてくる皇子の掌ひとつ、口付けひとつに、ユアンは息を飲み、あまりにもたやすく屈してしまう。
 シーツに押しつけられた肩に、なめらかに流れる背筋に、持ち上げられた肉付きの薄い尻に。そこから伸びる締まった曲線を描いた腿にも脛にも、確かめるように皇子の指と唇が這わされる。下腹の奥を弄られながらのその感触に、ユアンは腰が砕けそうなほど震え上がった。
「く、ぅ……ッそ、そこばかり、そんなふうに、弄らないで、くれっ……」
 このままでは達してしまう。確実に熱が籠もり昂ぶってゆく下半身に、ユアンは思わず訴えていた。営みの日頃からの約束事として、皇子はユアンが勝手に達することを禁じている。だが、そこばかりをそうやって刺激されたら、こらえようとしても堪え切れるものではない。
 それを知っているだろうに、しかし皇子はいっそう声音の中に低い含み笑いを宿した。
「そこ、とはどこだ? ここのことか」
 ぐり、と、奥に挿し込まれた指の腹で、まさにその場所を強く抉られた。ユアンは身動きしようにもできない中で目を見開き、立てた腿を突っ張らせて、喉の奥から呻いた。
「だ、だから、そこはッ……やめ、……うあ、あっ」
「中がひくついているぞ。そんな格好で中を弄られて、辛抱がきかないほど悦いのか。大体、そんなに締め付けておきながら止めろと言われてもな」
 そう言いながら、フィロネルの指はユアンの奥をぐちぐちといたぶることを止めない。蓄積されていた快楽が一気に膨れ上がり、あやうく絶頂しそうになって、ユアンは息を詰まらせて全身に力をこめた。
「だっ……だ、から、だめだッ……そんな、されたら、い、いく……ッ」
 ただでさえ楽な姿勢ではないのに、手首や足首の枷がぎしりと軋み、関節が痛むほど強張った。絶頂をこらえようとすると、心臓がこれまでの比ではなく早鐘を打ち始める。全身に汗が噴き出し、がくがくと太腿が震えた。
 ユアンが歯を食いしばっていると、シーツに押しつけていた額髪を掴まれた。ぐいと顔を起こされた耳元に、ぞくりと体内を這うような妖しい声音が流し込まれた。
「勝手にいくだと? 何をふざけたことを言っている。おまえにはそんな自由はない。おまえは俺が許可するまで、ひたすら堪え続けていればいい」
「は…………」
 ユアンの全身にぞわりと鳥肌が立ち、その声音だけでまた達しそうになった。息が止まり、脳髄までもが圧倒的な熱と昂ぶりに浸蝕されてゆく。
 耳朶を強めに噛まれ、耳の孔に濡れた舌を挿し込まれて、ユアンは悲鳴を上げた。背後から覆い被さるフィロネルの体温と体重に、ますます頭に血が昇る。耳の孔を犯すぬるぬるとした舌の蠢きに、甘すぎる戦慄が脊髄を駆け上がる。尻の中を掻き回す指は変わらず弱点を責め続け、ユアンは断続的に痙攣し始めた。
「ぅあっ」
 もう駄目だ。と思ったとき、前触れなく皇子の指が引き抜かれた。まだ小刻みに震えながら、ユアンはシーツに頬を押しつけて脱力した。なんとか堪えた、と思ったのも束の間、腰を掴まれ、後ろの孔に指よりもずっと熱く太いものがあてがわれた。
「いくなよ」
 低めに短く言われると同時に、フィロネルの滾ったものが押し込まれてきた。ユアンの喉は調子の外れた悲鳴を上げたが、よくほぐされ柔らかくなった窄まりは、むしろ喜びいさんでそれを食み、迎え入れた。
 半ばまで難なく埋まったあたりで、よく鍛えられた皇子の腕が、ユアンの肉付きの薄い身体を背後から引き起こした。
「ひいっ、ッ……あ、あ!」
 手脚に枷を嵌められたユアンは抵抗しようもなく、背後から抱かれるような形で、皇子の上に腰を落とすことになった。半ば下腹部に埋まっていた灼熱する塊が、なすすべもなくユアン自身の体重によって、ずぶずぶと容赦なくめり込んでくる。内臓を掻き分けて奥の奥まで突き上げてきたそれに、ユアンは意識が飛びそうになった。
 かろうじで気をやらずに済んだのは、いくなよ、という皇子の短い言葉があったからだった。
 ユアンを意のままにし、精魂尽き果てるまで嬲り抜くようなフィロネルのやり方に、ユアンもいつの間にかどっぷりと浸かっていた。自分がどういう性癖なのかは、ユアン自身にもよく分からない。だが皇子に完全に支配され、徹底的に追い詰められて貪られることが決して不快ではないこと、そう扱われることに腹の底からぞくぞくと込み上げてくる妖しい喜悦があることを、いつの頃からか自覚していた。
 なんとかフィロネルのものをすべて受け入れたものの、ユアンはぐったりと皇子に背を預け、荒い息を吐いた。完全に息の上がっているその顎を、背後から掴まれ、曲げられる。重なってきた唇に、ユアンもすぐに唇を開いて舌を絡めた。
 深い口付けに下半身が疼き、己の中がフィロネルのペニスを締めるのを感じる。汗びっしょりになっている胸板を皇子の手がすべり、締まった腹筋の上を指先でなぞられると、ユアンはただそれだけで喉の奥で喘いだ。体質なのか、ユアンの身体はいくら鍛えても屈強な逞しさには欠けるのだが、その張り詰めたような未完成なしなやかさを、皇子はそれなりに愛でているようだった。
 理性と本能の狭間で翻弄され、汗と涙で濃紺の睫毛を湿らせているぼんやりとしたユアンの眼差しに、フィロネルが薄く、しかし熱情を孕んだ紫の瞳で笑んだ。
「悦い顔だ」
 普段は鋭利なほど凜としたユアンの藍色の瞳は、理性の光を残しながらも、今や身を犯す快楽に溺れかけている。本能の昂ぶりにとろけ始めたその眼差しは、それでいて媚びを一切含まない。それがいっそう、目を瞠るほどの艶を眼差しに与えている。
 フィロネルはもう一度ユアンの唇に唇を重ねながら、その股間に手を下ろしていった。既に完全に勃起しているペニスに皇子の指が絡んでくると、ユアンは唇を塞がれたまま、びくりと反応した。どくどくと脈打ち、先端から溢れる蜜を淫靡に纏っているそこは、握られただけでくちゃりと湿った音を立てた。
「う……う、ううっ、​​​──ッ……っ」
 そのまま股間で遊び始めたフィロネルの指に、ユアンは声を出せないまま身をよじらせた。股間を弄られながら、いたぶるように舌を吸われて噛まれ、捏ねまわされる。息苦しさも手伝って、ますますユアンの頭の芯が煮えるように熱くなった。
 フィロネルは腰を動かそうとはしなかったが、まるで杭のよう体内に深々と突き刺さったものは、その上にユアンを逃れようもなく縫い止めている。滾り切ったユアンの陰茎は、もう一撫でされるだけでも放出してしまいそうだった。ユアンの弱点を知り尽くした愛撫を受けながらそれを必死でこらえることは、恐ろしく気持ちが良かったが、ひどくつらくもあった。全身に汗が光り、囚われた中で四肢が突っ張って、枷に繋がった鎖がしきりに硬質な音を立てた。
「うあ、あぁあっ、だめだ、ッ……!」
 やっとフィロネルの唇が離れると、ユアンの唇はすぐさま弱々しい悲鳴を吐き出した。
 手枷と足枷を嵌められ、逃れようもないまま皇子の手で無防備なペニスを扱かれ、後ろには皇子の欲望を深々と食まされている。これが倒錯した状況であることは分かっていたが、そう思えば思うほど、ユアンは身も心も眩暈がするほど昂ぶる。理性を徐々に蝕まれ、自分の中の本能を強引にさらけ出されてゆくのが、異様に心地良い。
 こんな感覚を自分に教え込んだのは皇子だ。だが気持ちが良くても、つらい。つらいから、余計に気持ちが良い。
「駄目だ。絶対に気をやるな」
 いっそう酷薄に、愉しげに笑みながら、フィロネルがユアンの首筋を後ろから噛み、舌を這わせた。汗みずくになりながら痙攣するユアンの肩に、その口付けは伝ってゆく。そこに焼き付けられた蛇の徴に。
「こ、これ以上、む、むり、だッ……もう、い、いくっ、いッ……」
 全身を引き絞るようにユアンが呻き、呼吸を詰まらせて激しく喘いだ。堪えられるならもっと堪えたかったが、本当にもう限界だった。
 その震え方でフィロネルもそれを察したのか、そらぞらしい嘆息をつき、ユアンの股間から手を引いた。
「まったく、悦すぎて俺の言うことが聞けないとは。いつからおまえはそんなに淫らで卑しくなった、ユアン」
「こ、こんなふうにされて……堪えられるわけ、ないだろうっ……」
 息を詰めるあまり酸欠を起こしかけた頭がふらついて、ユアンは涙の滲んだ目でなんとか首を曲げ、背後のフィロネルを睨み付けた。フィロネルが求めることならば応えたい気持ちはあっても、健全な生身である以上は限度があった。
 その目許に唇を当てながら、フィロネルが小さく笑った。
「まあ、おまえがどんなに泣き言を言おうと知ったことではないが」
 フィロネルの手が、ごく小さな何かを取り出した。見覚えのある小さな輪のようなものに、ユアンはぎくりとした。
「そ、それは……う、あ、あぁ」
 小さなそれは、勃起した陰茎を締め付け射精を封じる小道具だった。逃れることもできないまま、反り返ったペニスに根元の方から二つ三つと輪を嵌められ、ユアンは仰け反った。締め付けられることで脈打ちがいっそう強まり、股間が数倍にも膨れ上がったように感じる。射精を禁じられた鈴口が、喘ぐようにぱくぱくと小さな口を開閉させた。
「俺が堪えろと言ったら堪えろ。そうやって悶えるおまえの姿は最高だ。もっと俺にその淫らな姿を見せて、その悦い声を聞かせろ」
 フィロネルが熱く低く囁き、ユアンの耳殻を噛んで耳の付け根に舌をぬるりと這わせた。ユアンの張り詰めた哀れな股間に、再びフィロネルの手が這い降りた。
 ささやかだが残酷な小道具は、ユアンの根元から陰茎の真ん中あたりまでを締め付けている。そのせいで更に充血し敏感さを増している裏筋やカリ首の周辺に、皇子の指は遠慮も無く絡んできた。くびれのあたりをきゅうと締め付けて扱きながら、つるりと赤く膨れた亀頭を捏ね、蜜まみれの先端を指先でぐちゅぐちゅとほじる。
「うぁ、やめ、やめろっ……ひぃッ……ひ、あぁッ!」
 身体はとっくに振り切れているところに、その刺激はあまりにつらかった。苦しいほどの悦楽のためだけの器官になりさがったペニスは、だらだらと先端から湧き出る先走りにまみれて、皇子に弄ばれるたびに粘ついたいやらしい音を立てる。その蜜の中には、少しずつ洩れ出しているのだろう、既に強制的に抑え込まれているだけの精液が混ざっていた。
 しかし、どれほどペニスを嬲られても射精はできない。ユアンは激しく喘ぎ、後ろから皇子に抱かれたまま、全身を震わせて身悶えた。痙攣する腰が楔のように食まされたフィロネルのものをきつく締め上げ、背後で皇子の唇が熱を帯びた吐息を零した。
 果実のように色づいて勃ち上がっていた乳首を摘ままれ、強く引っ張られたまま揉まれると、ユアンは言葉にもならない引きつった声を上げた。激しい呼吸を繰り返すその耳元に、皇子が唇を寄せた。
「知っているぞ。おまえはこうして自由を奪われて、俺に好き勝手に嬲りものにされることがたまらないのだろう。普段の取り澄ました顔からは想像もつかんな。まったく、おまえもとんだ好きものだ」
「ち、ちがうっ……こ、こんな……これは、あんたが、するからッ……」
 かろうじで残っている理性が働き、咄嗟にユアンは否定した。その通りだと、もう自分でも分かっている。だがそんなあさましいことを皇子に見透かされ、指摘されるのは、あまりにも恥ずかしい。
「どの口が言う。前も後ろもそんな有り様にしておきながら」
 ユアンの口の中に、言葉を封じるようにフィロネルの指が入り込んできた。皇子の指を傷つけるわけにいかず、奥歯を噛み合わせることができなくなったことで、ユアンの唇からますますだらしない喘ぎが涎と共に零れ落ちた。ひどい扱われように、しかし身体の芯はずくりと疼く。ユアンは何も考えないまま、まるで奉仕するように、口の中の皇子の指を嘗め始めた。
「おまえがここまで淫乱だとは思わなかった。そういえば、鞭で打たれながら喘いでいたこともあったな」
 意地悪く耳元に囁かれた言葉に、ユアンは以前そんなこともされたことを思い出した。思考力の麻痺しつつある頭に、そのときの感覚が甦る。痛みと苦しさと圧倒的な快楽に、自分のすべてが押し潰されたあのとき。
 フィロネルの指を口に突っ込まれたまま、ユアンの喉が喘いだ。背後にいるフィロネルが、一瞬呼吸を詰め、低く笑った。
「……下が締まったぞ。そんなに悦かったのか、あれが」
 そんなふうに低い声で意地悪く囁かれながら身体を弄られると、おかしくなる。ユアンは自分の窄まりがフィロネルを渇望するように幾度もきつく締め上げるのを感じながら、返事のように必死で口の中の指を嘗めしゃぶった。苦しい。それなのに気持ちが良い。苦しいのにもっと欲しい、壊れるほど乱暴に扱ってほしい。この倒錯と無理強いがフィロネルの愛情であり欲望であり、それに組み敷かれ貪られることが極上の悦びであることを、もう自分は知っている。
「ひッ……!」
 いきなり口の中から指を抜かれ、ユアンは腰の中に熱い楔を埋め込まれたまま、再びシーツの上にうつ伏せに突き倒された。腕も脚もろくに動かせない中、犯されたままの淫らな孔の中で、皇子の熱く滾ったものが動き始めた。
「うあ、あぁああっ、あ、あッ……!」
 ものの数回の抽挿で、あっけなくユアンは昇りつめた。腰の奥がどろりと熔け、爪先から脳天までを、意識がかすみそうなほどの悦びが駆け抜けてゆく。
 フィロネルはユアンの髪を掴んでシーツに押しつけ、その痙攣している下腹の奥をますます抉りあげた。
「今度はどうしてほしい。また吊るして気絶するまで鞭打ってほしいか? それとも、そうだな。おまえのような奴は、首を絞めながら犯してやろうか」
「あ、あ……っひ、ひいッ……ああぁッ……っ!」
 その言葉を聞いているだけで、髄からぞくぞくと立つ粟肌が止まなかった。そうしてほしいと言葉を返したくても、ユアンはもう舌がまわらなかった。フィロネルは悲鳴を上げて引きつるユアンをますます追い詰めるように、戒められて硬く反り返ったままのそのペニスを握り、扱き上げた。
 身体の奥での絶頂には際限がなく、ユアンは手脚を拘束されフィロネルの身体の下に閉じ込められたまま、灼熱する欲望そのものを受け入れてひたすら反応し続け、かすれた喘ぎを上げ続けた。
 絶え間なく押し寄せる熱と快楽が、ユアンの脳髄をただそれだけに塗り潰す。繰り返して絶頂する腰を激しく容赦なく突き上げられるうちに、身体が己のものではなくなるような感覚に陥り、何もかも分からなくなった。その果てに、ユアンはペニスの戒めを乱暴に外されると同時に放出していた。
 己の叫び声すら聞こえないまま、ユアンは自分の身体を抱き締めるフィロネルの腕と、下腹の奥ではじける熱を感じながら、とうとう圧倒的な喜悦の中で失神していた。

 一度や二度気を失っても、皇子が満足するまでは、ユアンは繰り返し何度も抱かれる。それは息も絶え絶えになるほど苦しかったが、同時に他では味わえない絶対的な恍惚と陶酔感があった。フィロネルが紫色の瞳を欲望の色に燃え上がらせて自分を求めてくることが、昂ぶる交わりのうちに息遣いを乱して眉根を揺らす様が、ユアンを麻薬のように強烈に酔わせた。
 たとえ一方的に嬲られているようでも、そこには互いに望むものがある。行為のうちに自分を見下ろしてくる、疑うべくもない情熱を孕み余裕を欠いた狂おしいように切なげな紫の瞳は、決して平素の冷然とした皇子には見られない。乱れた長い黄金の髪と睫毛に彩られたそれは、普段よりも数倍深く強く煌めいて、この世のどんなものよりも美しくユアンの網膜に焼き付く。
 閨では何をどうしてもいいが、一つだけユアンからもフィロネルに求めたことがあった。それは、最後は手脚から拘束を外すことだった。
 ユアンは途中で気を失って朝まで目覚めないこともざらだったが、それを伝えてから、フィロネルは必ず最後は拘束を外してくれるようになった。
 枷を外されたばかりの手脚は痛み、いつもなかなか思うように動かせない。だが痛みと痺れに震える腕をなんとか伸ばし、ユアンは自分の上にいる、屈折していて横暴で傲慢で誰より愛しい存在を抱き締めた。
「……フィロネル」
 人目があるときは決して口にできない呼び方で、抱き締めたフィロネルの耳元に、ユアンは万感の想いを込めてその名を囁く。
 ユアンのことしか映していない、どこまでも引き込まれそうな熱く美しい紫色の瞳に、この男は自分のものだ、とユアンは確信する。皇子でも最高権力者でもない、ただの血肉の通う身体と魂を持った一人の人間として。そして自分もまた、身体と魂を持つただの一人の人間として、手脚も心臓も、爪の一欠片から髪の一筋まで、すべてこの男のものなのだと思う。
 強く深く絡め取られているのは、きっとお互いにそうで、互いに同じほど奪われている。だから行為が終わった後のキスは、激しい交わりとはうって変わって、互いに与え合うように優しいのだろう。
 ユアンがぐったりと疲れ果てて眠りに落ちる前に、必ずフィロネルはユアンを抱き締める。ここに来る以前は知らなかったその感触に、ユアンは多少戸惑いつつも、他では得られない安息と充足感を覚えた。
「フィロネル……」
 それだから、ただでさえ疲れ果てた後の眠気は、ユアンをあっという間にとらえてしまう。その貴い名を呼び捨てにできる自分だけの特権が誇らしく嬉しく、繰り返し夢うつつに名を呼ぶうちに、瞼を持ち上げようとしても、いつも睡魔に負けてしまう。
 髪を撫でられる感触が夢見心地だった。眠りに落ちる自分をフィロネルがどんな顔で見ているのか、それがいつまでも分からないことだけが、少しユアンには残念だった。


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